灸とは元来、皮膚(経穴)の上で艾を燃焼させ、いわゆる”灸痕”という軽い火傷を残すユニークな治療法である。皮膚上には熱関連受容体であるTRPV1受容体が存在し、カプサイシンや熱、酸(プロトン)によって活性化することが報告されている。このTRPV1受容体は、灸刺激で用いる熱刺激にも関与していると考えられてはいるが、その作用機序について詳細に検討したものは少ない。そこで本研究では、機械的に作成した灸様刺激を用い、TRPV1受容体との関連性を、膀胱機能を指標に検討することとした。当初、本研究は灸刺激と消化管運動に対する影響とTRPV1との関係性について明らかにする計画を立てていたが、実験実施者自身の様々な環境の変化から、膀胱機能を指標とした実験に切り替えた。 実験は、ラットをウレタン麻酔下におき、血圧、呼吸、膀胱内圧を維持、計測した状態で行った。膀胱は低圧に保ち、右会陰部への灸様刺激を温熱刺激装置にて行った。刺激温度は40、45、50℃、刺激回数は1、3、9回とした。40℃の刺激では膀胱収縮は観察されず、45、50℃と温度が上昇するにつれて大きな収縮がみられるようになった。また刺激回数においても、回数依存性に膀胱収縮が観察された。その収縮はTRPV1アンタゴニストの投与によって減弱した。TRPV1受容体はC線維上に存在し、43℃以上の熱に反応することが知られている。本研究の結果から、灸様刺激の皮膚からの入力が、体性神経に存在するTRPV1受容体を介しC線維を興奮させる体性‐自律神経反射により、膀胱収縮を促したものと推察された。 これらの内容をふまえ、第72回日本自律神経学会にて発表を行った。現在、論文投稿に向けて準備中である。
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