発達障害を持つ子どもの療育の1つに作業療法がある.作業療法のセラピストと子どもの間に生じる良質な関わりには,子どもが新しい環境で主体的に考え適応的に環境や他者に関わる能力を引き出す働きがある.しかし,その関わりの質はセラピストの技量によって異なる.そこで本研究は,セラピストの経験年数にともなって,セラピスト-子ども間の関わり方がどのように変化するか,さらに,熟達したセラピストの関わり方にはいかなる特徴があるかを定量的分析により明らかにすることを目的とする. 今年度は,本研究で明らかにしようとする2つの課題のうちの2つ目の課題,すなわちセラピストとしての経験年数による関わりプランニング過程の相違の解明を中心に検討した.初心者と5年以上の作業療法士の経験を持つ経験者はそれぞれ,子どもの一人遊びの様子を移した短い動画を視聴し,その後半構造化面接を受けた.この面接では,子どもについて気になったことやこれからこの子どもに自分自身が関わるならばどのようにするかを中心に報告してもらった.実験参加者らの報告を分析した結果,経験者と初心者の着目点に相違があることが明らかになった.この結果をInternational Convention of Psychological Science (ICPS)において発表したほか,関わりのプランニング過程についての検討結果の発表を現在準備している. さらに,子どもに関して見聞きした情報の相違が子どもとの関わりに与える影響について検討を行った.これは,上記検討から出てきた課題,すなわち,熟達によって子どもに関する情報の収集方法が変わり,結果として関わりが変わるのか,それとも,単純に子どもに関する情報の質さえ変われば子どもとの関わりも変わるのかを明らかにするものである.実験を終え現在データ解析中であり,結果の公表を計画している.
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