今年度は、『霊台秘苑』と『観象玩占』のテキスト調査をもとに研究発表と論文執筆をし、本研究のまとめとした。 『霊台秘苑』に関しては、北周に編纂・宋代に重修されたが、現存の15巻本がどこまで北周の内容を残すかは長年疑問のままであった。本研究において国内所蔵のテキストを比較し、宋代の特徴が色濃く、北周の内容をほとんど残していないと指摘した。これにより、宋代のテキストとして『霊台秘苑』を研究に利用することが可能となった。このことについて、2019年3月に東京ミーティング2019.3にて研究発表し、同2月には「『霊台秘苑』のテキストについて」という論考が武田時昌編『天と地の科学』(京都大学人文科学研究所)に掲載された。 また、『観象玩占』は現存テキストも多い天文占書であるが、成立時期は不明で著者・巻数・内容等にヴァリエーションがあり、いずれが正しいとも判断しがたい扱いづらい文献である。そこで本研究において朝鮮刊本を調査し、江戸時代の日本と朝鮮王朝の天文占書受容を比較した。その結果、『観象玩占』は日韓両国に流入したものの、朝鮮王朝では粛宗・英祖期に幾度も刊行され、国の役所である観象監で測候の際に参照される等、中国由来の天文書として権威をもった。一方、日本(江戸時代)では一部の有力大名が所持するものの、勘文等政治の場では用いられず、使用の実態が見られなかったことを明らかにした。 さらに、『霊台秘苑』の2系統のテキストを電子テキストとして入力した。今後、天文占書フルテキストデータベースにて公開予定である。
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