研究課題/領域番号 |
16K21508
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小野寺 勇太 近畿大学, 医学部附属病院, 助手 (30510911)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 幹細胞 / Stemness / ストレス / TAK1 |
研究実績の概要 |
ES・iPS細胞などの多能性幹細胞は、多分化能性と自己複製能を有している。特にiPS細胞は患者個人から作成することで、細胞移植医療における理想的な細胞と考えられている。また、個々人のiPS細胞を作成、形質を観察することが出来き、新薬開発においても有益である。しかしながら、様々な外的要因により分化・変質することから、安定した治療成績を担保するためには、高い品質を維持するための培養法やiPS細胞の作成効率の向上が必須である。 幹細胞を始めとした細胞は、ストレスに対し様々な応答を行い、炎症性サイトカインや酸化ストレスが細胞を変性させる。このようなストレスは、ストレス受容分子により細胞内に伝達され、様々な分子カスケードの活性化を経て遺伝子の転写制御に関わる。今回着目したTGFβ-activated kinase1 (TAK1)はストレス受容伝達カスケードにおいて代表的な分子であり、様々な細胞内シグナル伝達経路の中でも最も上流に位置するMAP3Kの1つであること、種を越えて保存されていることから、発生・恒常性維持において極めて重要な役割を有していると考えられる。事実、TAK1のノックアウトマウスは胎生致死となることが知られ、Stat3(Tyr705)の異所(Ser727)リン酸化の促進、Wnt/βカテニン経路にあるTCF/LEFの抑制、Smadの核移行を抑制することなどが報告されている。さらに、MAP3Kでありながら核内でも機能するなど興味深い性質も明らかになってきている。幹細胞制御については、Nemo-like kinase(NLK)などの分子を介した幹細胞の未分化制御機構が示唆されているが、詳しいメカニズムは殆ど解明されていない。 本研究では、多能性幹細胞のストレス応答におけるTAK1の役割を解明し、これを制御することで新規の多能性幹細胞維持培養法、樹立法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TGFβの添加によりTAK1を活性化し、未分化マーカーの変化を検討した。TGFβの濃度依存的にTAK1がリン酸化され、未分化マーカー(Pou5f1、Sox2、Klf4、Nanog)の遺伝子発現が抑制されていた。一方で、TやTbx-6といった分化マーカーは亢進しており、未分化性は低下し細胞が分化へと進行していることが示唆された。さらに、TAK1のリン酸化阻害剤(TAK1i)を添加すると、特にNanogの発現が回復した。これにより、mES細胞の未分化維持機構において、TAK1の活性化は負の制御機構であることが示唆された。また、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によってTAK1のノックアウトES(TAK1KO-mES)細胞を作出した。マウスへの移植にてテラトーマを作成したところ、TAK1KO-mES細胞由来のテラトーマは全く形成されなかった。また、TAK1KO-mES細胞のテラトーマ作出に限って移植のエンドポイントを延長したが結果は変わらなかった。TAK1はmES細胞の未分化維持、分化過程での増殖に不可欠な存在であると考え解析を進める予定である。 前述よりTGFβ添加は、中胚葉マーカーの発現を亢進していた。これより、中胚葉系譜の幹細胞である間葉系幹細胞(MSC)においても幹細胞特有のメカニズム(Stemness)におけるTAK1の役割を検討した。MSCは筋・骨・軟骨・脂肪を始めとした中胚葉系の細胞へと分化可能な体性幹細胞の一つであるが、継代毎にMSCのStemnessが損なわれるなどそのメカニズムは未だ多くが未解明であり、培養系自体が確立されていない。そこで、MSCにおいてもTAK1の制御を検討した。MSCにおけるTAK1は常にリン酸化されており、細胞質及び核内の両方で発現が認められた。TAK1iを添加すると、核内での発現が著しく減少し、濃度依存的に細胞増殖は抑制された。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では早期にLC-MSを駆使することでTAK1に相互作用するタンパク質の同定を行う予定であった。しかし、MSCによる興味深い結果を受けて実験系の見直し等を実施した。その中で、網羅的な解析を行うにあたり、ES細胞、MSCそれぞれにおける他の解析結果や既存のデータベースによる相互作用の予測を実施し、MSCに関して幾つかの相互作用タンパク質を検出することに成功した。いずれも報告のない新規性のあるTAK1のパートナータンパク質である。現段階では、直接的な結合なのか、何らかのタンパク質を介した間接的な結合なのかは不明である。また、ヒト癌細胞を用いた予備的検討による成果であることから、mES細胞やMSCを用いたCo-IPを実施し、同様の結果が得られるのか検討する必要がある。一方、今回実施を計画するnanoLC-MSは非常にコストを要する解析ではあるが、従来法に比べて飛躍的に検出感度が改善された優れた解析となっている。必要に応じてnanoLC-MSの実施を検討し、より多くのパートナータンパク質を明らかにすると共に、TAK1の持つ機能を明らかにしていきたい。さらに、並行してTAK1 flox/floxマウスを用いたコンディショナルノックアウトマウスの作成を進めており、In vivoにおける発生学的な解析も実施を予定している。
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