間葉系幹細胞(MSC)は現在の再生医療における中心的な細胞材料の一つである。良好な臨床効果が複数報告されている一方で、細胞そのものの性質、幹細胞としての機能がどのように維持されているのかについてはほとんど分かっていない。これまでTgfb-activated kinase(TAK1)を欠くMSCが殆ど増殖できない事を昨年度までに報告した。本年度ではTAK1とHippo pathwayとの連関を中心にMSCの増殖制御機構に迫るとともに、TAK1阻害がもたらす静止期同期を応用した新しい移植用細胞調整法の可能性を検討した。 マウスBMMSCをモデルに、TAK1阻害剤:5z-7-oxozeaenol (5zox)、siRNA、CRISPR/Cas9システムを用いて前年度までに実施したTAK1の増殖・分化に及ぼす影響をより詳細に検討した。昨年度までの結果からTAK1の活性化阻害は増殖抑制を引き起こす事が明らかとなっており、Fucci-BMMSCの解析よびトランスクリプトーム解析を実施し、TAK1の抑制はBMMSCに静止期を誘導することを確認した。また、マイクロアレイ解析においても静止期に特徴的な遺伝子発現パターンを示すことを確認した。さらに、Co-IP解析により、TAK1はHippo経路のYap1/Tazとの相互作用、活性化を介して細胞周期を制御する事が明らかとなった。 TAK1阻害剤が静止期同調をもたらすことを利用して、BMMSCの骨髄髄腔内移植を実施し、1、3、7、28日後に移植したMSCの定着率をFACS解析により評価した。TAK1阻害を行った細胞は未処理の細胞に比べて3倍近い定着率となり、TAK1阻害が移植直後の細胞死の軽減と定着率の向上に有効であることが示された。
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