研究課題/領域番号 |
16K21509
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
倉岡 康治 関西医科大学, 医学部, 助教 (10581647)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会的情報 / 報酬 / 嫌悪 / サル / ニューロン / 扁桃体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、サルにとって価値を有する社会的情報の処理には、解剖学的結合が知られる扁桃体と腹側線条体が関わると考え、その検証のために、社会的報酬処理過程において、扁桃体と腹側線条体との間に機能的結合が形成されることを明らかにすることを目的としている。 平成29年度は、所属機関が近畿大学医学部から関西医科大学医学部に変わったため、実験装置を移して研究実施場所を移転した。そのため、改めて実験装置の立ち上げから行った。平成28年度までは、被験体のサルにとって視覚刺激そのものが元々有する価値に対する応答に注目していたが、本年度は古典的条件付けパラダイムを用いて、ある視覚刺激に正や負の価値を条件づけ、その価値が同じ社会的情報を共有する他の視覚刺激にも般化するという社会的条件付けが形成されるかを検討した。ある個体の特定の画像に正や負の価値の条件付けを行うと、その個体の別の画像にも同じ価値を見出すような行動を示した。一方で、社会的情報を有しない画像を刺激に用いると、このような条件付けの般化がみられなかった。よって、被験体のサルにとって社会的条件付けが形成されたと考えられる。 また、京都大学霊長類研究所との共同研究により、他個体画像に対するサルの興味が、扁桃体等の対象領域の活動に関与すると考えられているテストステロンの投与により、どう変化するかを調べている。本年度はケージ室に取り付けて行動データをとる装置に、被験体のサルが慣れるよう、報酬を用いて誘導した。その結果、報酬がなくなっても装置に触れて、他個体画像を提示させる行動がみられた。この結果は、他個体画像を見ること自体が、ある種の報酬となっていた可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度いっぱいをもって前所属である近畿大学医学部を退職し、平成29年4月より新たに関西医科大学医学部に所属することになった。これに伴い、研究実施場所も変更になり、実験装置を全て移す必要が生じた。そのため、改めて実験環境を構築する必要があった。また、この移転にあたり前所属機関では購入できずにいた、神経活動記録装置を新たに購入し、立ち上げを行った。さらに新しいサルを被験体に用いて訓練を行い、行動データを得られるようにする必要があった。現在では、新しい被験体のサルにおいて社会的条件付けが形成されていることを確認した。 他に、京都大学霊長類研究所との共同研究では、霊長類研究所を5回訪問し、サルが他個体画像に対する興味を測る行動データを取得したが、まだ次の目的であるテストステロン投与による行動への影響をみるには至っていない。 以上のように、新たな研究環境で新たな実験動物を用いて新しい神経活動記録装置のセットアップも行い、データを得られるようになったが、行動データを記録している共同研究を含めて、まだ本来の目的のデータを十分に集める状況になっていないため、本研究課題は"やや遅れている"と言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度中に、新しい所属先においても、研究環境を構築し、新しい実験個体で行動データを既に取得したため、今後は扁桃体ならびに腹側線条体などの関連する脳領域から神経活動の記録を行い、領野間の機能的結合について検討する予定である。さらに、扁桃体の活動を一時的に抑制する薬物を用いて扁桃体の活動が低下する状況をつくりだし、社会的条件付けに与える影響について検討する。 霊長類研究所との共同研究に関しては、他個体画像毎の被験体ザルの興味を詳しく調べた後、その興味がテストステロン投与によりどう影響を受けるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) もともと平成29年度後半に開催されるある学会大会に参加予定があり、その旅費分を残していたが、別の予定が入ったことで参加できなくなった。年度末が近かったため他の物品購入等に用いず繰り越すことになった。 (使用計画) この残金は、次年度の予算と合わせて、新たな実験個体の導入に当てる予定である。
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