本研究課題の目的は、以前に明らかにした霊長類腹側線条体における社会的報酬予測に関連する神経応答が、腹側線条体と解剖学的結合が知られる扁桃体と関連していることを明らかにするために、扁桃体において社会的報酬予測における神経応答を記録し、腹側線条体のそれとの関連を調べることであった。 平成30年度は、社会的報酬予測および社会的報酬そのものに対する腹側線条体と扁桃体の神経応答を比較し、2つの領野の機能的結合について検討した。 社会的報酬予測は、視覚刺激に対して、サルがもともと価値を見出す刺激と実験環境において価値を見出すようになる刺激の2つの社会的報酬刺激を条件付けることで行わせていた。もともと価値がある社会的報酬の予測刺激に対する興奮性応答を2つの領野で比較すると、腹側線条体より扁桃体の応答のほうが早かった。しかし、この予測応答について、扁桃体では社会的報酬価値に関連していなかったが、腹側線条体では社会的報酬価値が高いほうがより大きな応答を示した。一方、実験環境において価値を見出す社会的報酬の予測刺激に対しては、扁桃体でも社会的報酬価値が高いほうがより大きな応答を示した。 また、腹側線条体では社会的報酬刺激そのものに対する興奮性応答があまりみられなかったが、扁桃体では社会的報酬刺激そのものに対して興奮性応答がみられ、さらに社会的報酬価値が高いほうがより大きな応答を示した。 以上の結果により、扁桃体では視覚経路で入ってくる社会的報酬予測情報に対して、その価値を判断するよりも前に応答して、その準備情報を腹側線条体などに伝え、腹側線条体ではその準備情報をもとに社会的報酬価値の判断を行うという、2領野間の機能的結合が形成されていることが示唆される。そしてその後、実際に入力される社会的報酬情報の価値は扁桃体で行っていることも示唆される。
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