ノイズ前庭電気刺激(n-GVS)は健常者の立位重心動揺を改善させることが報告されている。我々は前年度の研究で健常若年者、健常高齢者、脳卒中患者に対するn-GVSの効果について、ノイズ種類、ノイズ強度を変更して検討を行った。その結果、ノイズ種類の違いについては差を認めず、ノイズ強度は強いノイズ条件において重心動揺の改善効果が認められる傾向にあった。いずれの条件においても、n-GVSの電流刺激強度は各被験者の通電感覚閾値の50-90%程度で動揺の改善がみられた。そこで今回我々は、脳卒中患者の立位バランス改善のための治療にn-GVSを用いることで、効果が得られるかについて検討を行った。 対象は回復期病院に入院中の脳卒中患者10名とした。先行研究で実施した結果から得られた最適なノイズ種類、ノイズ強度を用いたn-GVSをパーソナルコンピュータにより作成し、被験者へ適用した。刺激電流強度は被験者の通電感覚閾値の70%の電流量とした。介入は2週間とし、通常のリハビリテーションに加えて15分/日のノイズ前庭電気刺激を安静座位で適用した。最初の1週間を介入期(通電感覚閾値の70%電流)、後の1週間を偽刺激期(0%電流)として、介入前、介入後、偽刺激後にそれぞれ開眼時、閉眼時、閉眼+n-GVS時の重心動揺の計測を実施した。 介入前と比較して介入後は閉眼時、閉眼+ n-GVS時の重心動揺は有意に減少が認められた。しかし、偽刺激後は介入前と同程度の重心動揺であった。 本研究では介入時期における重心動揺の改善効果は認められたものの、効果の持続は見られなかった。n-GVSによって前庭脊髄路の賦活が起こり学習されるのか、前庭情報を利用しやすくなった結果、一時的に前庭系への依存が高まった結果であったのかについては明らかとなっていない。今後、n-GVSの効果発現機序について検討する必要がある。
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