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2016 年度 実施状況報告書

財市場競争がマクロ経済に及ぼす影響

研究課題

研究課題/領域番号 16K21525
研究機関明治学院大学

研究代表者

室 和伸  明治学院大学, 経済学部, 教授 (10434953)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワード労使交渉 / 財市場競争
研究実績の概要

財価格は、費用にマークアップ分を上乗せして決定され、マークアップが高いほど財市場は独占的であり、マークアップが低いほど財市場は競争的である。財市場における競争度合いが、(1)経済成長率に及ぼす効果、(2)資本分配率に及ぼす効果、(3)フィリップス曲線の形状に及ぼす効果を分析することが当初の研究の目的である。
財市場の競争激化が、経済成長率を高め、資本分配率を低下させ、フィリップス曲線を水平化させることを示すために、財市場と労働市場の不完全性を、(a)研究開発に基づく内生的成長モデル、(b)資本蓄積を考慮した中期マクロモデル、(c)ニューケインジアンモデルに導入して分析を行っている。
財市場の競争激化が経済成長率に及ぼす効果に関して、当初の計画通り、順調に進み、以下のような結果を得た。研究開発に基づく経済成長モデルでは、独占利潤が研究開発のためのインセンティヴであり、発明者の利潤は特許によって保護されている。そのため、財市場の独占度が高いほど、研究開発の誘因が高まって経済成長率は高くなる。一方、財市場が競争的になると、独占的競争企業の販売価格は低下して限界費用に近くなるので、利潤も低下し、研究開発の誘因は薄れるから、経済成長率は低下する。これが従来からある結果であった。労使交渉によって賃金と雇用を決定するという労働市場の不完全性をモデルに導入すると、財市場競争の度合いが低い場合、競争の激化は、経済成長率を高めるという局面が出現することが明らかになった。競争激化によるマークアップの低下が失業率を低下させ、研究開発を促進される。競争が激しすぎると経済成長率は低下するという従来からある結果も得られる。つまり、横軸を財市場競争度合い、縦軸を経済成長率とすれば、逆U字型であることが理論的に導出された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

財市場の競争激化が経済成長率に及ぼす効果を分析する際、労使交渉を研究開発に基づく成長モデルに導入している。そして、財市場競争と経済成長率の間に逆U字の関係が得られた。こうした結論を得るために、失業者が受け取る失業給付は、雇用者から互恵的に提供されるものとしてモデル化がなされている。また、失業給付は失業率に反比例するという仮定を置いている。これらの仮定は若干アドホックであるか、あるいは、現実的に適切でないと指摘される点でもあるため、そうした批判にも耐えられるよう、そして、結論が頑健であることを示すために、モデルを修正する必要に迫られた。
そこで、政府が税金を集め、それで失業給付を賄うという仕組みでモデルを再構築することにした。また、失業給付は失業率に反比例するというアドホックな仮定を緩めた。このように失業給付に関する仮定を変更したとしても、財市場競争の度合いが低い場合、競争の激化は、経済成長率を高めるという局面が出現することが明らかになった。つまり、財市場だけでなく労働市場にも不完全性が存在すれば、横軸を財市場競争度合い、縦軸を経済成長率とすると、逆U字型になるという結論は頑健性が高いと言える。
財市場における競争度合いが資本分配率に及ぼす効果を分析する際に、先行研究とは異なり、労働だけでなく資本も用いて財を生産すると仮定した。資本と労働の間の代替の弾力性一定の生産関数を用いている。資本分配率の決定要因は、3つの要因(1)財市場競争度合い、(2)代替の弾力性、(3)労働者の交渉力によって決まることが明らかとなった。財市場が独占的であるほど、資本分配率は高まることが理論的に示された。
財市場と労働市場の不完全性をニューケインジアンモデルに導入すると、失業率とインフレ率の間のフィリップス曲線を導出でき、財市場競争が激化するとフィリップス曲線は水平化することが明らかとなった。

今後の研究の推進方策

当初の計画通り、おおむね順調に進展しているため、今後も研究実施計画に沿って研究を推進していく。ただし、マクロ経済分析の最近の学界の流れに沿うような形で、分析手法も新しいものを取り入れていかなくてはいけない。それは、フィナンシャル・フリクション(金融摩擦)、信用市場の不完全性である。自己資金が充分にある経済主体は借入できる企業となり、自己資金が不足する主体は借入できないという、経済主体の異質性を分析することが可能となる。また企業間で獲得利潤も異なってくる。
財市場の競争激化が経済成長率に及ぼす効果を分析する際、独占的競争企業は同じ価格付けを行い、同じ量だけ財を生産し、同じだけの利潤を稼ぐ。つまり、中間財を生産する独占的競争企業は、差別化された商品を生産するものの、実質的な意味で企業間に異質性は存在しないと言える。
金融摩擦、言い換えると、信用市場の不完全性を導入し、企業間に異質性が存在する場合、利潤にも異質性が生まれるため、本研究の結論がどのように変わるかという点にも着目しながら、今後の研究を推進していく。つまり、財市場・労働市場・信用市場が不完全な経済を分析することとなる。特に、信用市場の不完全性と異質主体のマクロ経済分析は学界における最先端の研究内容であるため、最近のマクロ経済研究に関する十分な調査が要となる。

次年度使用額が生じた理由

定期的に神戸で開催されている「成長分配格差の中期マクロ経済学研究会」に出席する予定であったが、9月以降は家庭の事情により参加できなくなってしまった。そのため、当初の予定よりも旅費支出が少なくなり、次年度使用額が生じた。

次年度使用額の使用計画

次年度は、7月6日-8日にフランスのパリ経済大学で開催されるカンファレンスに出席し研究発表することなったため、国際的研究発表のための旅費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Sector-Specific Logistic Technological Progress in a Two-Sector Optimal Growth Model2017

    • 著者名/発表者名
      Kazunobu Muro
    • 雑誌名

      The Paper and Proceedings of Economics

      巻: 154 ページ: 1-10

  • [雑誌論文] Structural Change and Constant Growth Path in a Three-Sector Model with Three Factors2017

    • 著者名/発表者名
      Kazunobu Muro
    • 雑誌名

      Macroeconomic Dynamics

      巻: 21(2) ページ: 406-438

    • DOI

      https://doi.org/10.1017/S1365100515000565

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Does Product Market Competition Promote Economic Growth? - Two Bargainning Systems and Creative Destruction2017

    • 著者名/発表者名
      Kazunobu Muro
    • 雑誌名

      The Paper and Proceedings of Economics

      巻: 153 ページ: 9-33

    • 謝辞記載あり
  • [学会発表] Does Product Market Competition Promote Economic Growth?2016

    • 著者名/発表者名
      室 和伸
    • 学会等名
      日本経済学会秋季大会
    • 発表場所
      早稲田大学(東京都新宿区西早稲田)
    • 年月日
      2016-09-11 – 2016-09-11
  • [学会発表] Credit Market Imperfection and Goods Market Deregulation2016

    • 著者名/発表者名
      室 和伸
    • 学会等名
      日本経済学会春季大会
    • 発表場所
      名古屋大学東山キャンパス(愛知県名古屋市千種区不老町)
    • 年月日
      2016-06-18 – 2016-06-18
  • [図書] 『経済理論・応用・実証分析の新展開』 松本昭夫編、第1部第4章「2部門成長モデルにおけるサービスと製造業」2017

    • 著者名/発表者名
      室 和伸
    • 総ページ数
      12
    • 出版者
      中央大学出版部

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公開日: 2018-01-16  

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