研究課題/領域番号 |
16K21531
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
青木 一勝 岡山理科大学, 理学部, 講師 (70586677)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジルコン / 高圧変成岩 / 構造浸食 / 白亜紀 / 太古代 |
研究実績の概要 |
白亜紀日本の形成場(プレート収束域)において既存の地殻を削り地下深部まで運ぶ「構造浸食作用」が起きていたことはこれまでの研究から示唆されている。そこで当該年度では、当時の構造浸食作用面の1つであったと推定される紀伊半島中央部に産する仏像構造線に注目し、そこから岩石試料を数mオーダーで連続的に採取し、岩石薄片中の微細構造の顕微鏡観察を行い、当時の構造浸食作用の痕跡を探った。露頭での構造解析の結果、その境界の剪断センスは逆断層センスであり、更に境界上盤側の岩石が下盤側の岩石に取り込まれる産状も確認された。顕微鏡観察においても、上盤試料が細粒化し下盤試料にインジェクトしている産状が確認された。これらの観察事実は、紀伊半島中央部に産する仏像構造線が、沈み込み時に形成された初生的な境界であり、当時の沈み込み帯の浅部において上盤側の地質体を削剥しながら(巻き込みながら)形成した構造浸食作用面である可能性を示唆する。 四国中央部三波川変成帯最高変成度部岩石の原岩堆積年代を束縛するため、別子地域、瀬場地域などの変成岩試料からジルコンを分離し、LA-ICP-MS(レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置)U-Pb同位体年代測定を行った。現時点では、160Maの年代をもつジルコンが最も若いジルコンであることが分かっているが、この値は堆積年代を束縛するものではない。今後試料を増やし、引き続き分析を行う必要がある。 沈み込み帯で形成される高圧変成岩の形成プロセス、特に地温勾配について時代ごとに比較・検討するため、最も古い時代の沈み込み帯で形成されたと考えられる太古代バーバートン緑色岩帯の変成・温度圧力条件の解析を行った。その結果、当時起きた一連の沈み込み変成作用の中で、ある時期にその地温勾配が15-20℃/kmから20-30℃/kmに変化していたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通り、ターゲットとしている地域の野外調査や試料採取は行うことができた。しかし、補足試料採取の必要性や装置故障などのアクシデントもあり、研究試料を用いた系統的な岩石学的解析や地球化学的分析が順調に行えたとは言い難い。本研究のコアになる分析装置(LA-ICP-MS)が当該年度末に本学に導入されたので、その装置の立上げを早急に行い、試料の分析・解析をこれまで以上に迅速に行っていきたい。いくつかの結果については現在学術雑誌へ投稿中であるが、当初の予定より投稿が遅くなっているのは否めない。まとまっていない研究結果については早急にまとめ、少しでも早く学術雑誌へ投稿するように努める。 以上のことを踏まえ(3)とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の方策として、以下の方策をたてる。 白亜紀沈み込み帯で形成した関東山地三峰地域の変成岩に注目し、野外調査をおよび試料解析を行う。変成年代は、同地域から採取した変成岩に含まれる白雲母やジルコンに注目し、U-Pb年代分析やK-Ar年代分析を用いて解析する。変成作用の解析には顕微鏡観察をベースに岩石熱力学的手法やEPMA分析など各種分析を適応し、総合的に解析を行う。また、昨年度の続きとして、四国三波川変成帯最高変成度部岩石からジルコンを分離し、そのU-Pb年代測定の結果から原岩堆積年代や変成作用年代を束縛していく。以上の結果とこれまで報告されている年代や変成作用についての研究結果を比較し、包括的に三波川変成帯の変成プロセスについて議論する。 構造浸食作用に解明に関して、紀伊半島中央部に産する仏像構造線のジルコン分析を引き続き行う。これまでの研究結果により、仏像構造線が当時の構造浸食面である可能性は高くなった。そこで、今後の分析として砕屑性ジルコンの年代ヒストグラムや微量元素分析を行う。その結果を基に、境界を挟んだ原岩への削剥物質の違いについて議論する。 本研究では、構造浸食作用や変成作用など沈み込み帯で起こる様々な地質現象の包括的理解も目標の1つである。そのため、時代ごとの沈み込み帯高圧変成岩の形成プロセスの比較も重要になってくる。そこで、白亜紀三波川変成岩の比較対象として、昨年に引き続き太古代バーバートン地域に産する変成岩の形成プロセス、特に沈み込み帯中の流体の関与に注目し解析を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:当該年度において、大学担当授業の日程と海外学会の日程が重なったため、当初参加予定していた学会に参加することができなくなった。また、論文投稿も当初の予定よりもやや遅くなっている。そのため、それらに関わる費用(30万円)が次年度(平成30年度)繰越金となった。 使用計画:当該年度末に本学にLA-ICP-MS装置が導入された。装置を安定的に稼働させるためには、アルゴンガスやヘリウムガスといった装置内部に充填するガス類や装置部品クリーニングに使用する硝酸といった薬品などさまざまな消耗品(35万円)が必要になってくる。また、研究に必要不可欠な野外調査に関わる費用や研究成果発表のための学会参加費(40万円)、および学術論文の英文校正費用(5万円)も必要である。 それら費用に繰越金を合わせた平成30年度分の科研費を充てる。
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