本研究では,インフォームド・アセント(小児医療において保護者でなく患児本人に症状や治療内容を説明し,自発的賛意を求めること)に用いられる資料に着目して医療従事者が説明しやすく,小児にとって分かりやすい「言葉のみに頼らず視覚的にデザインされた資料」が全国的に共有されることを将来的な目標に据え,開発に有効なデザイン要件を明らかにすることを目的とする. これまでに日本小児がん研究グループに所属する194施設に依頼してアンケート調査を行い,現状を把握すると共に現状使用されているインフォームド・アセント資料の収集を行ってきた.しかし収集できた資料が7件と少数であったため,2019年は研究の方法を転換し,準備研究として成人患者に向けたインフォームド・コンセント用資料が患者に与える印象の調査・分析および文書の改善に有用なビジュアルデザインの要件抽出を計画の主軸に置いた. 先に,比較対象として一般的に用いられる様式の文書(一般モデル)と,同じ内容で言語による情報の質や量を保持しつつ,効率よい情報伝達の指針「ミニマム・エッセンシャルズ(可視性・注視性・記憶性・的確性・造形性・時代性)」を基に,改善に有効と思われるビジュアル的なデザイン要素を取り入れた文書(デザインモデル)を作成した.両モデルに対する印象評価の比較では,デザインモデルの満足度は高く,明るさ・暖かさ・にぎやかさなど高揚的な印象尺度の向上に効果が認められた.また,文書の印象を構成する因子として新たに「楽観性・親近性・明朗性」が把握され,改善に有効な要件として,親近的なビジュアルデザイン要素を用いて心理的支援を行うことが認められた.
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