本研究の目的は,若年労働者を対象として,抑うつとの関連が指摘されている社会心理学の概念の一つである自己複雑性とメンタルヘルスの関連について明らかにし,Web上で簡易に実施できる自己複雑性に関するe-learningプログラムを開発することであった。 令和元年度は,若年労働者を対象とした自己複雑性に関するメンタルヘルス改善e-learningプログラムの開発と効果の検討を行った。 若年労働者42名を対象に,介入群と統制群に無作為に割り付けた。介入群には自己複雑性に関するe-learning(全5回)を実施した。効果評価のため,プログラム前,直後,2週間後,1か月後にWeb調査を実施した。その結果,介入群の抑うつ得点が時期を経てなだらかに減少した。また,プログラム前よりも直後において,介入群のプレゼンティズム得点(出勤している労働者の健康問題による労働遂行能力の低下を示す状態の程度)が低下傾向であった。一方,エンゲイジメント得点(仕事に対してのポジティブで充実した心理状態の程度)はいずれの時期においても,介入群と統制群に大きな差は認められなかった。 以上のことから,本e-learningプログラムの効果として,自己複雑性を操作することにより,抑うつ及びプレゼンティズムを低下する可能性が示された。
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