研究課題/領域番号 |
16K21541
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研究機関 | 福山市立大学 |
研究代表者 |
林 聡太郎 福山市立大学, 都市経営学部, 講師 (80760040)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 運動生理学 / 体温 / アダプテッドスポーツ / 暑熱環境 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、基礎的データである上肢最大運動時の酸素摂取量の測定および体温の変動を明らかにした。脊髄損傷者の体温の変動は、健常者に比して高値で推移し、回復期においても低下は緩やかであった。 平成29年度は、これらの最大運動時の最高酸素摂取量から研究対象者の個々の運動強度を算出し、最大酸素摂取量の60%強度で30分間の上肢クランキング運動を実施した。研究対象者は、健常者と脊髄損傷者計8名であった。測定項目には、発汗量と深部体温を採用した。上肢クランキング運動は、脊髄損傷者の自覚的な運動強度および心拍数が低値を示した。これは、脊髄損傷者の主たる運動肢が上肢であり、上肢の筋持久力が優れていることが要因である。しかしながら、深部体温は安静時から脊髄損傷者がやや高値を示し、運動時間の延長に伴い健常者と脊髄損傷者の深部体温の差は有意に拡大した。脊髄損傷者の体温調節は、T(胸椎)10~11番より高位の損傷であると体温調節機能が欠如することが明らかになっている。今回の研究に協力を得られた脊髄損傷者は、T(胸椎)12番の損傷があり、体温調節の失調は小さいと考えられたものの、健常者と比較して深部体温が高値を示した。これは、麻痺部である下肢の発汗作用の低下と血管運動による熱の放散の困難さが引き起こしたものと考えられた。これらの結果は国際学会にて発表を行った。 また、これまで我々が得た知見と、これまで報告されてきたことから、国立スポーツ科学センターの内藤貴司氏と日本体育学研究に脊髄損傷者の体温調節機能と身体冷却に関する総説を共同で執筆し、平成30年度の6月に掲載がなされる。現在は英文の校正を行なっており、来年度に英文で発表を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで2年間に渡り、健常者における研究計画は完遂したものの、本研究の主たる研究の一つである脊髄損傷者のデータについては、基礎データは得られているものの、応用的研究の結果は揃っていない。これらは、応用実験に至るまでの研究協力の中止の申し出や、研究の継続によって脊髄損傷者の症状の憎悪が予見されるなど、研究対象者の安全性の確保のために中止を余儀なくされた者が出てきたためである。 脊髄損傷者のうち、特にT10~11より高位の損傷においては、自律神経機能の失調がみられ、体温調節が機能しない。高位損傷者においては、暑熱環境における最大強度の60%での運動を危険であると判断し、安全性の確保のために研究協力者から除外した。したがって、屋外の暑熱環境下における研究は完遂できなかったため、延長を申請し平成29年度に実験協力者の基礎データの習得から応用の研究に至るすべての研究計画を遂行することとしている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、研究対象者をT10~11損傷から低位の脊髄損傷者に限り、研究計画を遂行することとする。屋外暑熱環境における身体活動中の深部体温の変動および発汗量を明らかにすることを目的とする。 1)基礎的データの収集:新たな研究協力者では、最大下運動負荷試験によるVO2peakの測定:VO2peakは,ハンドエルゴメーターを用いて測定する。5分間の座位安静時の酸素摂取量、HRおよびRPEを測定する。ハンドエルゴメーター運動は、多段階漸増負荷試験を採用し、ウォームアップとして、0~3分;3.5 kcal/min、3~6分;4.0 kcal/min、6~9分;4.5 kcal/minを設ける。その後、1分経過につき0.25 kcal/minずつ負荷を上昇させ, 60 rpmで疲労困憊まで継続させる。これらの安静時から運動終了後の回復期に至るまで、深部体温を継続して測定を行う。 2)応用実験:基礎的データを得られた研究対象者については、フィールド研究を順次実施する。暑熱環境下における車いす走行時の運動強度、深部体温の変動、水分摂取量および水分補給率を測定し、車いす生活者の熱中症に関する指針立案を目的とする。測定項目は、生理的指標として、HR、BP、RPE、および口渇感を採用する。環境条件として、気温、湿度、黒球温度およびWBGTを測定する。運動課題は、心拍数からVO2peakの50%、70%、90%強度を運動負荷試験における心拍数の変化から予測する。運動課題遂行に使用する車いすは、一昨年度から使用しているセミオーダー競技用車いすを使用する。 これらのデータは、今夏にまとめ論文として、今年度中に学術雑誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の実施に伴い、研究協力者が謝金の受け取りを辞退したことと、応用実験に至るまでの研究協力の中止の申し出や、研究の継続によって脊髄損傷者の症状の憎悪が予見されるなど、研究対象者の安全性の確保のために中止を余儀なくされた者が出てきたことから、謝金に関する次年度の使用額が発生した。また、研究が遅延していたことから実験に要する飲料水の購入が計画よりも少量であったことが要因である。 本年度の使用については、新たな研究協力者への謝金と、実験時の研究協力者への飲料水などの消耗品に使用する予定である。また、研究成果をまとめた際の英文の校正費として使用する。
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