研究課題/領域番号 |
16K21543
|
研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
山尾 涼 広島修道大学, 人文学部, 助教 (70639608)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 外国文学 / 独語圏文学 / フランツ・カフカ / ポストヒューマニズム |
研究実績の概要 |
本研究では、ドイツ語圏作家フランツ・カフカに座標を定めて、ポストヒューマニズム的な視点の系譜を近代以降のドイツ文学および思想史の中へ遡上し、極端な人間中心主義に対する懐疑の発生からポストヒューマニズム的なディスクールの成立に至るまでを俯瞰することを目的としている。2017年度は日本オーストリア文学会秋季例会にて、「文化の病と〈人間〉獣-ニーチェ、フロイト、カフカ」というタイトルのもと、招待講演を行った。本発表ではニーチェ、フロイト、カフカの三者について、2度に亘る世界大戦を目前に活動を行ったという時代的共通性を踏まえて研究を行った。先行研究を確認すると、ニーチェからフロイト、ニーチェとフロイトからカフカへという思想的な影響関係が見出される。しかし、三者の中の二名を繋げる先行研究は見受けられるものの、この三者をひとつの線へと繋ぎ、当時の文化と人間に対する彼らの洞察がいかなる点で共通しているのかについて分析する試みはいまだ十分になされていないといえる。以上を踏まえて、次の2点に関して分析する試みを行った。1. ニーチェ、フロイト、カフカは人類大量殺戮を直前に、暴力性を募らせていく西洋文化と人間像をいかに洞察していたのか? 2. それらの言説を集めて分析を行うことで、三者の捉えた西洋文化の病理にまつわる洞察の共通項を見出しうるのではないか?本研究は次の結論を述べた。1.カフカの物語『変身』は、虫に退化するという皮肉を通じた、20世紀の精神の退行に対するカリカチュアである。2.『変身』の解釈から読み取られうる、カフカの執筆を貫く時代への抵抗の精神は、「偽善」という病いに陥った文化と、〈人間〉獣、「原始人」という表象で人間の獣性を批判したニーチェとフロイトの近代文化および人間批判の系譜へと据えることが可能である。以上、交付申請書の研究実施計画に則した研究内容で研究を行うことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度は学内で担当する新規の講義科目が増えたことから、本研究を申請した前任校で勤務していた当時に想定していたエフォートを、本研究に注ぐことが難しくなった。その結果、2017年度は一度の招待講演を行うのみで、論文執筆に至ることができなかった。本来は毎年度に少なくとも1件の学会発表と、論文の掲載を目標として掲げていたために、努力の至らなかった結果と受け止めている。
|
今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」では「やや遅れている」を選択したものの、研究の内容としては交付申請書の実施計画に則して考察することができている。2018年度には、2017年度に発表した内容で論文を執筆して公表することを計画している。 加えて、交付申請書に記載した「平成30年度の研究実施計画」のテーマに則して研究を進捗させるよう努めて、2018年度内には少なくとも1件の学会発表と2017年度の研究内容をまとめたものと併せて計2本の論文の発表を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は936円残った。紙や筆記用具などの消耗品の購入などにあてる計画である。
|