2018年度は紀要論文「文化の病いと〈人間〉獣 ―ニーチェ、フロイト、カフカ」(『広島修大論集』第59巻第2号、S. 189-201)を発表した。 ニーチェ、フロイト、カフカの三者は、世界大戦への予感を胸に、避けがたく自己破壊への欲望へと向かっていく西洋文化と人類をいかにしてみつめたのか。彼らはその洞察を、それぞれ哲学、精神分析、執筆という形でどのように描出したのか。また、当時の西洋は文化的な病いを抱えていたと考察しうるのか、あるいは病的な文化の中で、人類は獣性、すなわちニーチェの言葉を借りればタイトルへ挙げたような〈人間〉獣を自らの内に育んだのか。文化と人間にまつわる三者の言説を集めながら分析を行い、時代と人間に関する彼らの洞察の共通性を明らかにすることを目的とした論文である。 本論文執筆により、交付申請書に挙げていた3つの研究目的のうち、3つめの目的である「カフカに座標を定め、ポストヒューマニズム的な視点の系譜を近代以降のドイツ文学・思想史へ遡上する」を遂行することができた。 本論中では、ダーウィンの進化論と関係していると類推しうるニーチェ、フロイト、カフカの言説に関しても論じたため、当初の「研究の目的」に掲げていた、「ヒューマニズムに最初の衝撃を与えた人物としてダーウィンを措定し、進化論をドイツで広めたヘッケル、それを支持したニーチェ、フロイトなどの理論とカフカの洞察を交差させつつ、ポストヒューマニズム的な萌芽を文学・思想史に探る」という最終目的におおむね至ることができたといいうる。
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