本研究は,幼児期や児童期前期の自己評価変動過程を規定する要因を明らかにし,幼児期や児童期前期特有の能力認知に伴う一連の自己評価変動過程に関するモデルを構築することを目的としている。 令和元年度は,自己と他者の能力を認知する際に喚起される感情について調査協力園で調査を行った。具体的には,活動に対する自己関与度(自分が好きな遊びor嫌いな遊び),活動に対する友人関与度(友人が好きな遊びor嫌いな遊び),自他の遂行レベルの3変数を組み合わせた8種類の自己評価変動状況に関する架空の場面(自分が好きな遊びを友人が自分より上手にできた場合など)を口頭で提示し,それぞれの場面でどのような感情が喚起されるかについて尋ねた。喚起される感情については,平成30年度の研究や本郷ら(2017)の方法をもとに,6種類の感情(うれしい,かなしい,おこった,はずかしい,こまった,くやしい)を取り上げた。それぞれの感情を表す表情図を作成し,各自己評価変動場面でどのような感情が喚起されるかについて選択してもらった。 活動に対する関与度別の活動の遂行レベルと感情の関係を検討するためにχ2適合度の検定を行った。その結果,活動に対する関与度にかかわらず,自己が友人より優れている場合には“うれしい”を選択することが有意に多かった。また,自己関与度の低い活動において友人が自己より優れている場合には“うれしい”と“くやしい”を選択する幼児が多かった。その他の場合に関しては有意な偏りは見られなかった。幼児は,いずれの活動においても自己が友人よりも優れていた場合にはポジティブな感情を喚起させる一方で,友人が自己よりも優れている場合には,活動に対する関与度に応じて種々の感情を生起させることが示唆される結果となった。
|