研究課題/領域番号 |
16K21567
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
森 真奈美 仙台高等専門学校, マテリアル環境工学科, 助教 (80731512)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体用Co-Cr-Mo合金 / 結晶粒微細化 / 動的変態 / マルテンサイト変態 |
研究実績の概要 |
生体用Co-Cr-Mo合金は人工股関節等の整形外科用インプラントを始めとして広く使用されているが、材料特性は未だに不十分であり、特に強度、耐摩耗性の改善は本合金において重要な課題である。そこで、本研究では従来組織制御に用いられることのなかったε相(hcp構造)の結晶粒超微細化により高強度化を目指した。 平成28年度はナノε組織の形成過程を解明するため、J-PARCにてin-situ中性子回折実験を実施した。実験に用いた試料はCo-28Cr-6Mo合金を基本組成とし、γ(fcc構造)を安定化させる窒素を添加した合金である。高周波誘導溶解炉を用いて溶製した約40kgの鋳塊を1200 ℃にて熱間鍛造し、さらに熱間圧延により作製したφ14mmの丸棒を溶体化熱処理し、供試材とした。中性子回折実験はJ-PARCのBL20「TAKUMI (匠)」にて行った。本研究で対象とする動的変態を理解するためにはひずみ誘起マルテンサイト変態(SIMT)挙動を十分に理解することが必須である。本実験では973ー1173 Kにて引張変形を行い、SIMTが起こらない1173 Kでは、母相であるfcc構造のγ相のピークシフトが起こるのに対し、SIMTの発現する973および1073 Kではγ相のピークシフトは観察されなかった。以上は、SIMTの発現の有無により母相における組織変化に違いがあることを示唆しており、本研究で対象としたナノε相の形成のみならずSIMTの基礎的理解につながる新しい知見を得ることができた。現在CMWP法等を用いた転位組織解析を進めており、電子顕微鏡を用いた組織観察結果も踏まえてメカニズムを明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は当初の計画通り中性子回折実験を実施することができた。Co-Cr-Mo合金の高温引張変形中のin-situ中性子回折実験は本研究が世界でもほとんど例がないが、測定上の課題等含めて重要な知見を得ることができた。また、ひずみ誘起マルテンサイト変態に関して興味深い知見を得ることができ、今後の研究の指針が得られた。CMWP法を用いた転位組織解析については、測定データが膨大なため順次進めているところであるが、概ね順調な進捗状況と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
in-situ中性子回折実験により得られた知見を基に、超微細ε相の形成メカニズムを明らかにする。引き続きCMWP解析を進めるとともに、得られる実験データをまとめ、学会発表および論文投稿へとつなげていく。また、平成29年度はε相自体の力学特性について研究を進めるが、J-PARCでの実験に加えてラボでのX線回折や電子顕微鏡観察にも取り組み、効率的に実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は大強度陽子加速器施設J-PARCにてin-situ中性子回折実験における実験の解析を行うための計算機システムを購入する予定であったが、測定データが膨大なため適切な新規設備を再度検討しながら検討を行っている途中であることから、次年度以降に新規設備を導入することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
J-PARCにおける実験の解析を行うための計算機システムの導入に加え、当初の予定通り顕微鏡を使用した組織観察を行うために必要な試験片加工や消耗品等を購入する予定である。また、得られた研究成果の発表および論文投稿を行うための旅費や英文校正料として使用する予定である。
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