本研究では、生体用Co-Cr-Mo合金において従来組織制御に用いられることのなかったhcp構造を有するε相について、熱間加工中に発現する動的変態を用いた結晶粒超微細化に取り組んできた。令和元年度はJ-PARCのBL19「匠」において実施したその場中性子回折実験の結果について解析を行った。供試材として微量の窒素を添加し、fcc構造であるγ相を安定化させたCo-28Cr-6Mo合金を用い、変形温度973-1173 Kの範囲にて引張変形を加えた試験片から連続的に回折プロファイルを取得し、CMWP (Convolutional Multiple Whole Profile)法に基づくラインプロファイル解析を行った。973-1173 Kにて引張試験を行ったところ、引張変形によって動的相変態が確認された。1173 Kで変形させた試料のラインプロファイルではγ相の回折ピークにおいて結晶子の微細化や転位の導入に起因したピークのブロードニングが観察された。一方、973-1073 Kにて変形した試料では、ε相のピークが確認された、上述の1173 Kの場合と同じくγ相においてブロードニングやピークシフトが観察された。さらに、973 Kでは変形初期にセレーションが確認されたが、この要因として合金中に添加されているNが積層欠陥に濃化する鈴木効果の発現が示唆された。 以上のように、当該合金の動的相変態における母相の組織変化について、高温変形中のin-situ中性子回折測定により新たな知見を蓄積することができた。動的相変態による超微細粒組織の形成は鉄鋼材料等においても報告されているが、γ → ε変態における例はなく、当該分野における学術の発展において重要な成果が得られた。
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