研究課題/領域番号 |
16K21569
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研究機関 | 東京工業高等専門学校 |
研究代表者 |
水戸 慎一郎 東京工業高等専門学校, 電子工学科, 講師 (10637268)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 磁気回折 / 光偏向器 / 磁性ガーネット / 逆磁歪効果 / ビームステアラー |
研究実績の概要 |
逆磁歪効果により磁性ガーネット膜の磁区幅を高速に制御できる光人工磁気光子の形成と,その機能を用いて光回折状態を連続的かつ大幅に電子制御できる固体光偏向素子の実現を目指し,基礎検討を行った.その結果,単結晶磁性ガーネット膜に応力を加えることで,磁区幅を制御でき,その機能を用いることで光回折状態を連続的に変化できることを原理的に示すことができた. 垂直磁化特性をもつ単結晶ガーネット膜に圧電アクチュエータを接着した試料を用い,応力による磁区幅の変化を調べた.結果,応力により磁区構造を変化させられることを確認した.一方で,垂直磁化膜では磁区構造がメイズ状になるため,磁気回折光の方向がランダムになるという課題があった. 垂直磁化膜における磁区構造の課題を解決するため,面内磁化特性をもつ単結晶磁性ガーネット膜を用いて磁気回折の検討を行った.面内磁化膜においては,ストライプ状の磁区構造となるため磁気回折光の方向が一定であり,磁区方位を外部磁場により変更することで回折方位を360度に渡ってコントロールすることが可能であった.応力を印加したところ,磁気回折光強度が応力に対して連続的かつ直線的に変化し,変化は可逆的であった.また,回折角度も,応力により1度程度変化した. 以上の結果より,単結晶磁性ガーネットに応力を加えることで磁区幅を制御でき,その機能を用いることで光回折状態を連続的に変化できることを実証することができた.一方で,実証に用いた単結晶ガーネット膜の結晶磁気異方性,及びファラデー効果が,応力による磁区幅の制御と磁気回折に適したものではなかったことから,応力による光回折状態の変化は1度程度に留まった.これは,ガーネットの組成を変更することで大幅に改善が可能だと考えられるため,今後は単結晶ガーネットの組成変更による最適化,及び固体光偏向素子への応用を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は,本研究の原理実証を主な目的として研究を行い,実際に市販の単結晶磁性ガーネットを用いて原理実証を行うことができた. 真空蒸着装置を用いて,単結晶磁性ガーネット膜上へAl反射膜を形成し,これを圧電アクチュエータに接着接合した原理実証のための素子を作製した.この素子について,印加電圧(従って応力)に対する光回折状態の変化を詳細に調べた.また,本補助金により購入した偏光顕微鏡により,印加電圧と磁区幅の変化との関係を調べた.結果として,①電圧印加により磁性ガーネットの磁区構造が変化することの確認,②ストライプ磁区構造を持つ磁性ガーネット膜の条件の特定,③ストライプ磁区構造を持つ磁性ガーネット膜からの磁気回折の確認,④ストライプ磁区方位および光回折方位の磁場による制御,⑤圧電アクチュエータへの電圧印加により磁気回折効率を連続的かつ可逆的に変化出来ることの確認,⑥電圧印加による回折角度変化の確認を行うことがでた.以上6点の結果より,原理的に本研究のコンセプトが実現可能であることを実証できた. 原理実証には,本研究で実現する光人工磁気光子に適していない,市販の単結晶磁性ガーネット膜を用いたため,応力による光回折状態の変化量は回折角度で1度程度であった.これは,磁性ガーネットの組成を変更し,本研究に適した単結晶膜を用いることで改善可能だと考えられる.具体的には,結晶磁気異方性の最適化と,ファラデー回転角の増大を行う.磁性ガーネットの組成と磁気的,磁気光学的特性の関係については膨大な報告がなされており,これらを参考にすることで比較的短期に組成の最適化が行えると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究を推進し,実用的な光偏向素子を実現するには,単結晶磁性ガーネット膜の特性を最適化する必要がある.そこで単結晶磁性ガーネットの組成探査を行い,波長532nmにおいて10度を超えるファラデー回転角と,50J/m3以下の磁気異方性定数を持つ単結晶ガーネット膜の作製を行う.Pulsed Laser Deposition (PLD)法によりSubstituted Gadrinium Garium Garnet(SGGG)単結晶基板上に単結晶磁性ガーネット膜を形成し,その結晶学的構造,磁気特性,磁気光学特性を現有のX線回折装置,振動試料型磁力計,磁気光学効果測定装置により評価する.PLD装置は豊橋技術科学大学の装置を借用して行う.また,簡易的なLiquid Phase Epitaxy (LPE)装置を作製し,単結晶磁性ガーネット膜の作製を行う. 28年度は磁性ガーネット単層膜を用いたデバイスを試作し,原理実証を行った.29年度は,PLD装置により作製した単結晶磁性マイクロキャビティを用いたデバイスを試作する.単結晶磁性マイクロキャビティは応力印加が容易な薄い磁性ガーネット膜を用いた場合でも,厚い試料と同等の磁気光学効果が得られる特長を持ち,高性能固体光偏向素子を形成する観点から都合が良い. 28年度に開発した原理実証デバイスを用い,任意の方向に光を偏向させるレーザースキャナ,およびその制御回路を作製する.産業フェア等でデモンストレーションを行うことで,社会や国民への研究成果発信と産業界との連携を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,偏光顕微鏡を企業から購入する計画であったが,磁場印加等の研究要件に見合う製品がなかったため,自作した.この結果,偏光顕微鏡の導入に係る金額が1000千円程度抑えられ,28年度使用額が少なくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
予算的な限りのため導入を見送っていた,簡易的な液相エピタキシー装置を導入する.本研究においては,単結晶磁性ガーネット膜の入手,組成探査が重要である.当初計画通り,豊橋技術科学大学のPLD装置を用いて単結晶膜,及び単結晶磁性マイクロキャビティの形成を行うが,磁性ガーネット単結晶単層膜の形成法としては液相エピタキシーが一般的かつ容易であるため,これを導入する.
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