本研究は,逆磁歪効果により磁性ガーネット層の磁区幅を高速に制御できる光人工磁気格子膜の形成と,その機能を用いて光回折状態を連続的かつ大幅に電子制御できる固体光偏向素子を実現するものである. 本研究ではまず,磁気回折応用に適した縞状磁区構造をもつ単結晶磁性ガーネット膜の形成を行った.組成探査に適した液相エピタキシー(Liquid phase epitaxy: LPE)成膜装置を開発し,組成探査を行ったところ,Bi0.2Y2.8Fe5O12の組成において優れた磁気回折能を持つガーネットを得ることができた. 次に,作製したガーネット膜に圧電アクチュエータを貼り付け,圧電アクチュエータにより応力(変位)を加え,逆磁歪効果により磁気回折がどのように変化するか調べた.膜に300ppm程度の変位を加えたところ,磁気回折角が約1度変化した.これは,世界ではじめての応力による磁気回折制御例である.磁気回折角が小さいが,これは結晶磁気異方性の絶対値を小さくすることで向上できると考えられる.一方で,結晶磁気異方性が大きい膜においては,磁気回折角の変化が小さい半面,回折効率を応力により変化させられることを明らかにした.これは,縞状磁区の隣り合った磁区間に働く静磁相互作用と逆磁歪効果との相互作用により磁化の垂直成分が変化するためと考えられる.実験では,磁気的アシスト無しで,応力により可逆的かつ連続的に回折効率(光強度)を変化させられた.このような報告は世界初である. 面内に任意方向の磁界を加え,縞状磁区方位を変化させることで磁気回折方向を制御するデバイスの作製も行った.ステッピングモーターの固定子を応用することで界磁装置の小型化,低電流化を行い,8ビットマイコンでも制御できる装置とした.磁気回折を用いた個体光偏向デバイスは他に例がない.
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