研究計画最終年度ではあるため、これまでの成果のとりまとめを中心に行った。 本研究計画の目的である<考える哲学・倫理学の授業>の実質化に向けて、教材の試行と改善を行うとともに、それらを書籍や論文としてまとめ、広く公開することを目指した。特に、これまでの研究の中で明らかにしてきた哲学対話の手法や手続きといった教室での実践にとって不可欠な部分についての様々な知見に加えて、教材や題材に関して、書籍の一部として広く公表できたことは大きな成果であると考えている。 また、「実質化」の具体的なあり方として、国立大学の付属高等学校の公開研究会における公民科の授業での助言講師を務める機会を頂き、その過程でより実践的な知見を得ることができたとともに、本研究計画の成果の一部を論文や書籍等とは違った形で公開することができた。 同時に、本研究計画の柱の一つである哲学対話とそれにより涵養される能力についての基礎理論として能力や技能に関する基礎理論の構築も行った。<考える哲学・倫理学の授業>では、ある種の思考力の育成が志向されており、そこで涵養される「思考力」の内実を明らかにする必要がある。ここで育成が目指されている思考力が何らかの能力や技能の一部であることは疑いようがないものの、その内実は必ずしも明らかではなかった。本研究では、能力や技能といった概念の分析を現代の分析形而上学の知見を用いることによって行い、その理知的な側面を十全に明らかにした。これらは哲学における非常に専門的な成果ではあるものの、「思考力とは何か」という大きな問いに取り組むための一つの基礎を築くことができたという意味で、本研究計画の大きな成果であると考えている。 コロナ感染症の拡大の影響もあり、執筆や審査が遅れ、現在審査中の関連論文が複数あり、成果を年度内に広く公開できなかった点は今後の課題としたい。
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