身体不活動は骨格筋にインスリン抵抗性を引き起こし、2型糖尿病の発症リスクを高める。しかし、その分子機序は不明である。ところで、運動によって筋のエネルギー基質(ATP、CrP、グリコーゲン)が消費されると、AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPキナーゼ)が活性化され、糖取り込みや脂肪酸酸化の促進につながる。一方、申請者は、不活動によって筋の糖取り込みが低下することや筋内脂質が蓄積する可能性を示したが、運動と対極の立場にある不活動がAMPキナーゼを不活性化させるかどうかは不明である。そこで昨年度、不活動(ギプス固定)がAMPキナーゼの不活性化を介して筋にインスリン抵抗性を引き起こす可能性を検討したが、AMPキナーゼリン酸化レベルの低下、ATPやCrPの変化は観察されなかった。しかしながら、申請者はこれまでにAMPキナーゼの薬理的活性化剤であるAICARの事前投与がその後の不活動(ギプス固定)によって生じるインスリン抵抗性を防止できることを示している。そこで今年度は、食品素材によってAMPキナーゼを活性化することで不活動誘発性インスリン抵抗性を防止できるか検討するために、AMPキナーゼ活性化作用が報告されている植物由来ポリフェノールのルチンに着目し、ルチン摂取が不活動筋のインスリン抵抗性を防止できるか検討した。その結果、ルチンの事前投与はその後の不活動(ギプス固定)によって生じる筋のインスリン抵抗性を防止できなかった。ただし、本研究ではルチンが筋のAMPキナーゼを活性化する結果は得られていることから、投与の量やタイミングの違いによって防止効果が得られるのかもしれない。
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