本研究は,申請者が開発した共鳴音波を用いた蒸発係数測定法を基盤として,混合状態に対応した蒸発係数測定法の開発,並びに蒸発係数を高精度に求めるための実験式を構築することを目的としている.蒸発係数は,分子気体力学の境界条件,気体論境界条件に含まれる未知パラメータであり,蒸発係数が決定されることにより,気体と液体の界面において,どれだけの質量,運動量,エネルギーが交換されるのか,正確に求めることが可能となる. 今年度は,これまでの取り組みを受けて確立された実験系,すなわち,真空容器内を十分に排気し,非凝縮性気体等が残存していない状況を確立した後に,試料液膜を真空容器内に導入することが可能,を用いて,昨年度に引き続き単一物質(水)で実験系を満たした状態での実験を実施した.昨年度の取り組みでも単一物質(水)を対象として実験を行ったが,実験で使用しているバラトロン圧力計の挙動が不自然であり,その原因の分析と対策を行ったため,予定していたデータの取得が達成されなかったためである.本課題で混合状態における蒸発係数測定は単一物質の測定結果と混合状態における測定結果を比較し,測定条件を元に適切な関数でフィッティングすることにより導出される.したがって,試料物質,非凝縮性気体等のその他の物質,それぞれの分圧を正確に測定,制御する必要があり,単一物質(水)のみで満たされた条件で高精度に測定できる環境の確立が必要となる.今年度の取り組みの結果,本課題で取り組んだ,試料蒸気容器,試料液体容器の導入後も,水の蒸発係数は約1.0との結果が得られた. 今年度得られた成果に関して,英国,グラスゴーで開催された,第31回国際希薄気体力学シンポジウム(RGD31)で発表した.
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