物体表面の光沢感は、物体の素材や表面状態、新鮮さ等を判断する上で非常に重要な要因である。そのため、光沢情報の脳内処理過程を解明する事が求められている。我々は、これまでサルを用いた研究を行い、サルの下側頭皮質に光沢情報を処理している細胞が局在する領域が存在する(光沢選択的領域)ことを明らかにしてきた。本研究は光沢選択的領域の活動と個体レベルでの光沢知覚との因果関係を検証を目的として行った。
知覚と神経応答の因果関係を明らかにするために、サルが光沢判断課題遂行中、電気刺激や薬物注入を行い、神経活動を人為的に変化させた時に、サルの行動にどのような影響があるかを調べた。電気刺激実験においては、光沢選択的領域とその近傍の領域を電気刺激することで、それぞれの領域の神経細胞を強制的に発火させた。一頭のサルでは光沢選択的領域を電気刺激することで、光沢が強まる方向に判断のバイアスが見られたが、もう一頭のサルでは、光沢選択的領域と電気刺激による影響がみられた領域は必ずしも一致しなかった。この位置的な不一致を検証するために、今年度は、脳内マッピングに関する詳細な解析や、先行研究の調査を行い、国際学会における研究発表や論文の執筆を進めた。 また、より直接的に知覚と神経応答の因果関係を検討するために、当初の予定には含まれていなかった薬物注入実験を追加で行った。抑制系の神経伝達物質GABA作動薬であるムシモルを光沢選択的領域やその近傍にそれぞれ注入し、その周辺の神経活動を阻害した時の行動課題の成績の変化を調べた結果、ムシモルを最初に光沢選択的領域に注入した際に光沢判断課題の成績が低下する傾向が見られた。本研究により、光沢知覚と神経応答との因果関係が示された。
|