本年度は2018年8~9月、10月、2019年2~3月の3度にわたり、ブルガリアとギリシアで資料調査を行った。ブルガリアでは、デャドヴォ遺跡の前期青銅器時代層から出土した土器資料を一通り観察し、基礎データの収集を完了した。また、同遺跡における前期青銅器時代の層序を、層位断面図、出土資料、C14年代値を参照して決定した。その成果の一部を2018年10月24~27日にブルガリア・ガラボヴォ市で開催された国際会議(「Galabovo in SE Europe and Beyond」)において口頭で発表した。 ギリシアでは、エーゲ海北岸域(ギリシア・トラキア地方)に位置する前期青銅器時代集落遺跡(シタグリ、ディキリ・タシュ)の資料調査を、ドラマ考古学博物館、カヴァラ考古学博物館、フィリピ考古学博物館で実施した。その結果、ブルガリア・上トラキア平野と比較可能な資料と、西アジア系赤色スリップ土器の分布に関するデータを得た。 昨年度に引き続き、ブルガリア南東部に位置する平地型集落から出土した前期青銅器時代土器の胎土分析を実施した。本年度はスヴィレングラト・ブランティーテ遺跡を対象とし、偏光顕微鏡を用いた岩石学的手法を援用した。分析の結果、当該遺跡ではほとんどの土器胎土に同様の岩石鉱物の粒子が含まれていることを確認した。 本年度までの研究で得られた重要な成果の1つは、ブルガリア・上トラキア平野における前期青銅器時代編年の枠組みが、デャドヴォ遺跡の層位、土器型式、C14年代の検討を通じて一応の完成をみたことである。もう1つの成果は、赤色スリップ土器の調査を実施したことで、ブルガリア南部では都市的集落が築かれる前に、西アジア都市社会と接触し、土器製作に関する情報がもたらされていたことがわかり、西アジア都市社会とのあいだで行われていた交流のあり方の一端を明らかにした点を挙げることができる。
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