研究実績の概要 |
唾液腺型腫瘍には,その稀少さから,これまで詳細な解析がなされず,ドライバー変異が同定されない組織型・症例も多く存在する.加えて,組織型の多彩さから,形態学的分類が困難なケースが度々見られる.一方,唾液腺型腫瘍においてドライバー変異と目される融合遺伝子が,近年組織型特異的に同定されている.そこで,唾液腺型腫瘍の病型診断,悪性度分類,および分子標的治療の開発に寄与することを目指して,RNA capture sequencingにより検討を重ねたところ,腺様嚢胞癌において新規融合遺伝子MYBL1-NFIBを同定したことから,とくに腺様嚢胞癌に着目することとした.腺様嚢胞癌においては,これまでMYB-NFIBが広く知られている.MYBL1-NFIBの機能解析の途中でMYBL1-NFIBが報告されたが,MYB-NFIB, MYBL1-NFIBのいずれも陰性である例が全体のおよそ半数にのぼることが示唆されたため,それら陰性例を詳細に解析し,腺様嚢胞癌の病因を検討することを研究の目的とした. 具体的には,凍結保存検体27例を用いて,FISHによるMYB, MYBL1 locusの構造異常,multiplex RT-PCR や3’-RACE, RNA capture sequencingによるMYB-NFIB, MYBL1-NFIBの頻度やMYB, MYBL1発現量,付加的遺伝子異常の解析を行ったところ,以下の結果が得られた.(1) 27例全例で,MYBあるいはMYBL1の相互排他的な高発現がみられた.(2) MYB-NFIBは27例中9例 (33.3%),MYBL1-NFIBは6例 (22.2%)で陽性であった.(3) それらのトランスクリプトの構造は,融合型だけでなく,欠損型,全長型を含み様々であった.(4) MYBあるいはMYBL1のmRNA高発現は,MYBあるいは MYBL1再構成と完全に一致した.(5) 付加的遺伝子異常は,Notchシグナリングやクロマチンリモデリングに関わる因子の変異が見つかり,これまで報告と一致していた. 現在,多数のFFPE検体を用いて,結果のvalidationを行っている.
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