研究課題/領域番号 |
16K21592
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
五味 知子 成蹊大学, 文学部, 助教 (20751100)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中国史 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
平成29年度は、二本の学術論文を発表した。論文「婚姻と「貞節」の構造と変容」(『中国ジェンダー史研究入門』所収)は、貞節観念の変遷を分析した。その中で明らかになったのは、男性の妻妾に対する忠誠は問題にならなかったのに対して、女性の「貞節」は婚姻の基盤をなし、法規定や表彰制度の中で重視されたことである。「貞節」を守らんとする行動は、時として、他の徳目と衝突することがあった。王朝の表彰制度において、これらの女性をどうするかは、悩ましいところであったが、時代を追うごとに、貞節が他をしのぐ傾向が出てきたと分析した。論文「1870年代中国の新聞における裁判の報道とジェンダー」では、一八七〇年代における家族観や女性観について分析した。一八七〇年代には、洋務運動が起きたが、「中体西用」の立場をとっており、伝統的な家族観念を揺るがすようなことはなかった。このような状況が、この冤罪事件を生み出し、かつ世論や知識人仲間に訴えかける力を持った男性と、なすすべもない女性という男女差を作りだしたと結論づけた。 学術論文のほか、「回顧と展望:中国明清」では最新の研究動向を、「自由論題報告要旨:清代の告示文にみる庶民生活と地方官」(『史潮』新81)では、昨年度の学会における口頭報告の要旨をまとめた。 学会発表「明清時代之官媒制度與女性観」では、明清時代の官媒制度について論じた。明代には、女性の監視や護送に産婆や老婦が用いられることがあったものの、普遍的ではなかった。清代になると、女性の護送に官媒を用いることが法で規定された。監視・護送対象の女性が官媒に売春を迫られるなど、弊害が指摘されながらも、それに代わる決定的対策は見つからなかった。清末になると、婦女待質所の設立が提案された。官媒制度のこのような変化には、監視・護送される女性をどのように扱うべきかという女性観の変化もあると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は以下のような点で研究を進めることができた。(1)史料の調査・収集:国内、中国、台湾の図書館や研究所において関連史料を調査・収集した。特に、『巴県档案』『南部県档案』を調査し、家族やジェンダーにかかわる裁判案件についての史料を多く収集することができた。(2)史料の整理と分析:(1)において収集した史料をファイルにまとめ、内容のメモを取りながら、論文執筆に向けて整理をおこなった。この作業は、当該年度に約3分の1が終了したが、今後も整理や分析を続けていく予定である。(3)論文の執筆:予定どおり、二本の学術論文(「婚姻と「貞節」の構造と変容」、「1870年代中国の新聞における裁判の報道とジェンダー」)を執筆し、刊行することができた。(4)学会報告:海外の国際シンポジウムにエントリーして採用され、外国語(中国語)で口頭報告(「明清時代之官媒制度與女性観」)をおこない、貴重な意見を得ることができた。(5)研究動向の執筆:歴史学研究の分野では、研究史の整理は研究上欠かすことができないものである。本年度は「回顧と展望:中国明清」を執筆することで、明清期の中国に関する最新の研究動向を網羅的に把握することができ、大いに視野を広げることができた。これらのことから、研究がおおむね順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は研究のまとめの年にあたる。六月にはAsian Studies Conference JapanでパネルセッションGender and Discourse in Late Imperial Chinaのオーガナイザーをつとめる。また、同パネルで、報告“Personal belongings in the Public Space : Shoes in Records of Judgments of the Qing dynasty”もおこなう。十月には「明代日用類書をめぐる国際シンポジウム」(仮)においてコメンテーターを務め、明清時代の庶民文化について、議論を深める。官媒について、一昨年度・昨年度と口頭発表をおこなってきたが、昨年度は官媒と同じように下役人として働く検死役人について、史料を収集してきた。本年度は、それらの史料を引き続き整理・分析して、検死役人とジェンダーについての論文「検死とジェンダー:清代の検死にみる検死役人と産婆の役割分担」(仮)を執筆し、レフェリージャーナルへ投稿をする予定である。また、これまで清代の告示文の中にみられるジェンダーについて、報告や史料収集をおこなってきたが、これについても「告示文にみられる地方官の女性観」(仮)という論文を執筆し、レフェリージャーナルへの投稿をはかる。
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