シロアリの食害行動に関与する水代謝システムの分子基盤の解明と制御技術の開発を目的に、細胞の水の通り道を形成するアクアポリンに焦点を当て研究を行った。これまでに、イエシロアリから2種類(DRIP型とPRIP型)、アメリカカンザイシロアリから1種類のアクアポリンを獲得した。イエシロアリを対象に遺伝子・タンパク質発現解析を行ったところ、食害行動に必須の唾液腺にアクアポリン2種が共発現することが明らかとなった。唾液腺細胞は、低張液や高張液に浸漬すると速やかに膨潤収縮したことから、シロアリアクアポリンでも水輸送に寄与することが示唆された。今年度は、イエシロアリ唾液腺細胞を用い銅、亜鉛、第四級アンモニウム塩による水輸送活性の阻害効果を検討した。イエシロアリ職蟻から摘出した唾液腺は、銅や亜鉛の存在下では低張液に浸漬しても膨潤しなかった。一方、第四級アンモニウム塩では膨潤が認められた。金属イオンや第四級アンモニウム塩はヒトアクアポリンで阻害効果が認められているが、シロアリアクアポリンは金属イオンで阻害効果を有する可能性が推察された。つぎに、アクアポリン機能阻害が個体に及ぼす影響についてRNA干渉法を用い調べた。RNA干渉はDRIP型アクアポリン遺伝子から合成したdsRNAを職蟻体内へ注入することで行った。RNA干渉した場合、注入後の排泄量が無処理の半分程度になったことから、イエシロアリDRIP型アクアポリンが消化排泄系に機能していることが示唆された。これらの結果から、シロアリアクアポリンは消化及び排泄といった食害に関わる器官への寄与が考えられ、これを標的とした機能阻害によりシロアリ個体に変調をきたすことが期待できると考えられた。
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