申請者は、多くのがんにおいて高発現し、がんの独立した予後不良因子であるL型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)を標的とした新規RI内用療法薬2-[211At]astato-α-methyl-L-phenylalanine (2-AAMP)を開発するため、平成28年度までに、2-AAMP合成法を樹立し、2-AAMPの血漿中安定性、細胞内取込み及び細胞障害活性を明らかにした。特に2-AAMP合成では、酸化剤存在下で標識前駆体と211Atを反応させ、アルカリ条件下にて脱保護を行うことで放射化学的収率90.4%、放射化学的純度90%以上の2-AAMPを得た。また、がん細胞に対する2-AAMP取込みは、LAT1選択的阻害剤によって顕著に抑制されたため、2-AAMPのLAT1を介した取込みが示唆された。さらに、2-AAMPは放射能濃度依存的に細胞生存率を低下させ、細胞死を誘導した。そこで、平成29年度は2-AAMPによる細胞障害メカニズム及び体内分布を検討した。2-AAMP処置後に放射線障害に特徴的なDNA二重鎖切断が認められたため、α線によるDNA損傷が2-AAMPよる細胞障害に関与することが示唆された。また、2-AAMPの体内分布について、正常臓器への集積性は腎臓及び膵臓を除いて低く、時間経過と共に速やかに消失した。腫瘍集積性は正常組織に比べ高く、滞溜性を示したが、既報の211At標識抗体等に比べ2-AAMPの総集積量は低かったため、治療に用いるためには大量合成が今後必要である。211At標識体が体内で分解すると、脾臓、胃、肺に放射能が集積・滞留する。2-AAMP投与後にこのような現象は認められなかったため、2-AAMPは体内で安定に存在したことが示唆される。211At標識体の大きな課題として体内安定性の低さが挙げられるが、AAMPを標識に利用することで今後改善が期待できる。
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