近年カビにも光応答遺伝子が存在することが報告され、アカパンカビであるNeurospora crassaやAspergillus属菌のモデル生物であるA. nidulansにおいて青色光に対する応答メカニズムが解明されている。本研究では同じAspergillus属菌であるアフラトキシン産生菌も光照射に影響を受けて各種代謝を変化させるものと仮定し、単波長光源による光照射試験を実施してきた。H29年度までの試験により、青色領域の中でも特に500nm台前半付近の青緑光照射が最もアフラトキシンの産生量を増加させることを示したが、供試菌株の違いによって照射波長毎のアフラトキシン産生に対する影響が異なるケースも観察された。そこで照射光の強度を変更して試験を実施したところ、アフラトキシン産生に最適な照射強度が菌株により異なる結果が得られた。一方、青色光応答メカニズムによる誘導が知られている分生子の形成では、菌株の違いに寄らず照射強度に依存して比例的に変化し、この変化はアフラトキシン産生量の変化と必ずしも一致しなかった。以上の事から、アフラトキシン産生に対し、照射波長のみならず照射強度の変化も制御要因となっており、アフラトキシン産生と分生子形成は同様の条件で変化を示すものの、完全に共通した制御機構ではない可能性が示唆された。 本課題では研究期間全体を通して光照射環境の変化がアフラトキシン産生に与える影響を調査した。これは食品原材料等の輸送や貯蔵におけるアフラトキシン産生の抑制条件を探索することも目的としていたが、可視光照射条件において共通性のある有効な抑制条件は発見されなかった。一方で青色領域の光照射に対して有意に産生量を増加させることが示され、アフラトキシン汚染リスクを制御するための重要な情報を得る事が出来た。
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