本年度は,昨年度検討した堆肥内部の発酵状態推定モデル作成に必要な,堆肥による空気加温を一種の熱交換過程とみなした堆肥と空気間の伝熱係数の検討をおこなった。通常の熱交換過程における伝熱係数は,伝熱面積当たりで算出するが,堆肥原料においては原料内部の伝熱面積の算出が難しいことから,堆肥原料容積に,空隙率(Free Air Space; FAS)を乗じた伝熱体積を母数として伝熱係数を求めた。430Lの吸引通気式堆肥化装置で乳牛ふんとオガクズの混合物を堆肥化した条件において発生熱量,空気授受熱量,堆肥授受熱量を求めて,堆肥-空気間の伝熱係数を算出した結果,堆肥化過程を通して伝熱係数が一定ではなく,発生した熱量が原料加温に用いられなくなると高くなることが明らかになった。また,堆肥原料を通過して加温された空気の温度と伝熱係数の相関は有意(p<0.01)な二次関数で示されることが明らかになった。このとき,堆肥原料温度が60℃,排気温度が40℃程度で安定し,堆肥化による原料温度変化が小さい時期(定常状態)における伝熱係数は,20~30kJ/(m3 K)程度であった。 昨年度までの検討では,発酵停滞状態の再現を目指した堆肥化装置の試作と,発酵熱の利用による発酵停滞状態の解消法を検討していた。上記の試験において堆肥化初期において有機物の分解による熱発生よりも通気による原料加温が示唆された。そのため,現有の堆肥化装置に入気を加温する構造を付与する構造として,さらにモデル作成の検討を重ねることとした。
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