研究課題/領域番号 |
16K21608
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
上杉 龍士 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 主任研究員 (10423005)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コナガ / 長距離移動 / 流跡線解析 / 長距離移動 / 飛翔行動 / フェロモントラップ |
研究実績の概要 |
1)風洞の中でコナガ成虫を針金で吊るし風を送り、疑似的に気流中の受動的飛行状態を再現し観察可能な実験を行った。新たにビデオ観察データを加えた結果、コナガの羽ばたき行動は、気流の向きによって異なることが明確となった。追い風(後方気流)では、風洞に吊るした当初から持続的に翅を羽ばたかせ、次第に力尽きていく中で羽ばたき時間を減らしていった。一方で、向かい風(前方気流)では、最初から持続的な羽ばたきは行わなかった。追い風処理を行った16個体のうち最も羽ばたき持続性が高かった4個体は、24時間以上もほぼ休むことなく羽ばたいていたが、その後すぐに力尽きた。コナガは、追い風を受けるような姿勢で気流の流れに乗り、そのまま羽ばたき続けて揚力を長時間(24時間以上)持続させることで長距離の移動を可能としていると推察される。 2)コナガの長距離移動の実態を推定するために、気流解析ソフトウェアHYSPLIT(アメリカ海洋大気庁)を用いて、2017年4-5月の気流データ(GDAS1データ)を使い、気流による飛行軌跡(流跡線)を推定した。この結果から2017年4-5月において、限られた日だけであるが、越冬可能地である関東・東海・近畿地方から非越冬地である盛岡へのコナガの長距離移動が可能であったと考え、流跡線の長さからその長距離移動のスケールは数百~千km程度であると推定された。流跡線解析によって越冬可能地域からの飛来が成功したと推定された日の前後の天気図(気象庁「日々の天気図」)を調べた結果,前線の通過と流跡線解析による推定飛来日との一致は見出せなかった。むしろ前線の通過は,海よりの強い風をもたらすことによって,越冬地域から非越冬地域への飛来を妨げている可能性が高い。したがって、前線の通過とコナガ飛来との関係性に関する知見については再検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、風洞での飛翔行動実験や野外調査のデータにもとづく流跡線解析によって、コナガの長距離移動実態が明らかになり、論文による発表や学会での口頭発表を行った。したがって、研究の目的はおおむね順調に進展した。また、当初計画からの予想外の結果として、風洞実験における前方気流と後方気流でのコナガの飛翔行動の持続性の違いが明らかになった。こちらの方については、統計モデルに耐えうる程度にサンプル数を増やすとともに、試験条件を検討し、結果の検証のための追加実験を行う必要があるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画からの予想外の結果である、風洞実験における前方気流と後方気流でのコナガの飛翔行動の反応の違いについては、期間を延長し、詳細に検討する予定である。つまり、(1)ある特定の期間に孵化した集団内(成長上のバックグランドが等しい個体間)で前方気流・後方気流に対する飛翔行動の反応性の違いを確認する、(2)気温が飛翔行動に与える反応を観察する。以上の結果を踏まえて、新しく気流シミュレーションを行うことによって、コナガの長距離移動の実態をさらに踏み込んで解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額187,138円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、研究期間延長にともなう新たな実験遂行に使用する。
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