本年度は,次年度までの成果を踏まえて,傾斜地農地(棚田)を対象に,以下の2点に取り組んだ。1)小型UAV空撮・三次元化技術を活用した農村ランドスケープ・リテラシーの補助・強化の可能性の検討,2)多様な主体の参画に向けたランドスケープ・リテラシーの共有の実践と課題の抽出。具体的には,1)については,新潟県十日町市濁地区の棚田を対象に,田植え前(5月:雪解け直後)から稲刈り時(9月)までの5ヶ月間,同一のエリア(約10ha)を同じ高度(約90m)で概ね1ヶ月おきに小型UAVを用いた空撮を実施し,オルソ空中写真(解像度2.4cm)と数値表面モデル(解像度4.8cm)を5時期において得た。オルソ空中写真については,画像のRGBの値を用いて緑の濃さを示す指標(2GRB)での出力も行った。5時期の出力結果をもとに,当該地域で耕作を行っている農家4名への聞き取り調査を実施した。雪解け直後,田植え前の画像(2018年5月1日撮影)からは,畦畔を含めた各圃場の形状や凹凸がはっきりと把握することができた。一方で,出穂開花期の2GRB画像(2018年8月8日撮影)からは,複数の圃場で稲の生育のムラが確認でき,それぞれの生育ムラは,湧水が湧き出す箇所や隣接する森林の陰になる場所,まちなおし前の圃場の境界部など,昨年度までの調査で地域住民が有する農村ランドスケープ・リテラシーの内容として把握された項目が,稲の生育ムラを通して可視化されていることが明らかになった。2)については,十日町市で棚田の耕作・管理をおこなうNPO法人を対象に,GIS,三次元モデルなどを用いたスタッフ間の情報共有(作業上の危険箇所を含む圃場ごとの特徴・留意点など)のサポートを実践し,有効性と課題の抽出をおこなった。GISデータ化などの情報の記録が一定の役割を果たす一方で,対話などを通じた共有がより重要であることが確認された。
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