本研究は、翅の模様のグラウンドプランの概念理解・分子基盤を解析するための技術構築・その解明を目的とする。主として以下の5点に取り組んだ。 (1)グラウンドプランの形態学的な基礎をまとめ論文として発表した。また、グラウンドプランを一般概念へと拡張した多要素系の概念を議論し論文として発表した。 (2)4種の蝶や蛾について、5齢幼虫期と蛹期のRNA-seqを行った。カイコについて各発生ステージの遺伝子発現を比較し、統計的に有意に異なる発現をしめす遺伝子群を検出した。他の蝶や蛾については、研究が十分に進んでいる鱗翅目昆虫のデータを参照してアノテーションを進めている。今後、遺伝子発現の種間比較を行い、共通して発現している遺伝子群を絞り込む。 (3)翅原基での遺伝子発現を調べるために、5齢幼虫期の翅原基についてin situハイブリダイゼーションの立ち上げに取り組んだ。まずポジコンとしてrpl3遺伝子を用いて実験に取り組み、発現をしめすシグナルを得た。次に、モルフォゲン遺伝子についても取り組んだが、良好なシグナルを得られなかった。今後、条件検討を改めて行う。 (4)遺伝子機能を調べるために、鮮明な翅模様をもつカイコ系統でのゲノム編集技術の構築に取り組んだ。通常の組換え実験で利用されているカイコは翅の模様を欠失している系統であり、本研究には利用できない。NBRPで維持されている系統より翅模様が鮮明なものを選び、眼の黒色形成遺伝子であるw-1の欠失をTALENにより行った。その結果、w-1遺伝子を欠失させ、白眼の模様系統を作出することに成功した。 (5)カイコの遺伝子組換え技術を利用して、遺伝子制御を調べるための基盤技術の構築に取り組んだ。エンハンサー解析により体色形成にかかわる遺伝子の5’領域とイントロン領域を調べ、組織特異的に遺伝子発現を誘導するシス制御エレメントの同定・単離に成功した。本内容の論文を投稿中である。
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