研究実績の概要 |
睡眠覚醒は概日リズムによって制御される代表的な個体行動であるものの、その機構は不明な点が多い。特に1日の睡眠量の制御(ホメオスタシス)を司る遺伝子の同定はあまり進んでいない。その原因としては遺伝子改変マウスの作製および表現型解析に時間がかかることが挙げられる。本研究では、CRISPR/Casによるノックアウトマウスの作製と当研究室で開発された非侵襲新規睡眠測定法(Sunagawa et al, 2016)を駆使することでこれらの問題を解決を試みた。 平成29年度の研究では、これまでの研究の知見から睡眠ホメオスタシスの制御にアセチルコリンの関与が強く疑われていたため、アセチルコリン受容体ファミリーのノックアウトマウスをCRISPR/Casにより作製し、睡眠状態の解析を行った。また、必要に応じて蛍光in situ hybridization(FISH)による解析や断眠実験などを行った。 ニコチン型アセチルコリン受容体のノックアウトマウスは顕著な睡眠量の変化を見出さなかった。一方で、ムスカリン型アセチルコリン受容体Chrm1およびChrm3遺伝子ノックアウトマウスにおいては睡眠量の顕著な減少が観察された。興味深いことに、Chrm1/Chrm3遺伝子のダブルノックアウトマウスではより大きな総睡眠量の減少が観察されたことに加えて、レム睡眠がほぼなくなっていることがわかった。 本成果はレム睡眠を遺伝学的に定義付けする初めての知見であり、これからの睡眠研究を加速させるものと考えている。
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