研究課題/領域番号 |
16K21624
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岩本 一成 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (70619866)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 数値シミュレーション / EGFシグナル伝達経路 / 応答不均一性 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、上皮成長因子(EGF)シグナル伝達経路で観察されるERKタンパク質の核内移行応答の細胞間での不均一性を再現できる新規数理モデルの構築および数理解析を実施した。以下に成果の概略を示す。 Hornbergらにより構築されたEGF信号伝達経路の数理モデルに、以前の研究成果(Shindo et al., Nat Comm, 2016)に基づくERKタンパク質の核内移行制御機構を統合し、新奇EGFシグナル伝達経路の数理モデルを構築した。構築した数理モデルは150以上のキネティックパラメータを含んでおり、以前取得した実験データ(リン酸化および核内ERKタンパク質のタイムコースデータおよびEGF用量応答データ)に一致するようパラメータの最適化を行った。構築した数理モデルを用いた解析から、ERKタンパク質の核内移行応答の不均一性はシグナル伝達経路を構成するタンパク質量の違い(ばらつき)に起因することが示唆された。さらに、シミュレーション結果と実験データを正確に比較するため、実験誤差を表現する数理モデルを構築した。その数理モデルをシミュレーションデータに適用し、実験データとの比較を行った。その結果、各タンパク質量のばらつきが推定され、それは実験値と近い値を示した。さらに、推定されたばらつきを用いた数理モデルの解析から、EGFシグナル伝達経路の特定のタンパク質、EGF受容体、Ras、Raf、MEK等の細胞間での違いがERKの応答不均一性を決定している事が示唆された。これらの成果は論文としてまとめ、国際雑誌にて発表した(Iwamoto et al., PLoS Comp Biol, 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、平成28年度は、EGFシグナル伝達経路の数理モデル構築のみを行なう予定であった。数理モデルのパラメータ推定等が順調に進み、ベースとなる数理モデルが比較的早い段階で完成した。そのため、平成29年度に予定していた数理モデル解析を前倒しして実施したところ、EGFシグナル伝達の応答不均一性に関する興味深いシミュレーション結果が得られた。さらに、これらの結果をまとめ、論文として成果を発表でき、平成28年度は当初の研究計画以上に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、28年度に得られたシミュレーション結果を元に、EGFシグナル伝達経路の応答不均一性をタンパク質ばらつきから予測できる手法を調査する。現在の計画では、機械学習(SVM)などの教師あり学習および主成分分析やt-SNEなどの教師なし学習の手法を適用する予定にしている。各手法をシミュレーションデータに適用し、最も精度良く予測できる手法を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初に購入を予定した計算機の価格が、当該年度中に低下し安価に購入できたため、その差分が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度へと繰り越した予算は、データ保存用ハードディスク等の購入にあてる予定にしている。
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