放射能分布・減弱係数同時推定手法である MLACF(Maximum Likelihood Attenuation Correction Factor)法では、TOF(Time-of-Flight:飛行時間差)情報を用いることで減弱補正係数の分布形状を推定可能であるが、最終的な定量値に重要な係数を定めるためには、値が既知の領域などの先見情報による制約が理論上必要となる。本研究では、投影データの1方向分の情報が既知であれば精度よく減弱補正係数を推定できることを示した。1方向分の情報は、患者の測定時に、視野内に患者から少し離して既知放射能の点線源を1つ配置し、TOF情報を用いて分離することで求めることが可能である。280 psの時間分解能を持つTOF-MPPCモジュールを用いた実験により、数センチ程度離れていればTOF情報を用いてどちらの放射能分布から放出されたデータであるのか分離可能であることを確認した。 また、実際の装置でTOF情報を用いるためには、検出器素子ごとの時間情報のばらつきを補正する必要がある。ヘルメット型PET装置は検出器配置が特殊であるため、通常の円筒型PET装置で行われている校正用線源を用いた補正法を適用することができない。そこで、ヘルメット型PET装置に適した形状の校正用ファントムを開発した。 一方、視野内に点線源を配置することで、減弱補正係数を直接測定できるようにはなるが、できることなら追加の線源なしで同様の精度を達成できることが望ましい。そこで、最終年度では、近年注目を集めている深層学習をMLACF法に組み込むことで、同時推定の精度を向上させる手法を提案した。コンピュータ上で作成された脳モデルを使用したシミュレーション検討により、深層学習を用いることで、追加の先見情報なしでも精度よく減弱補正係数が推定でき、最終的なPET画像の定量性が向上することが示された。
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