研究課題/領域番号 |
16K21639
|
研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
盛永 敬郎 千葉県がんセンター(研究所), がん治療開発グループ, 研究員 (30757000)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 悪性中皮腫 / アデノウイルス / 細胞周期 / Wee1 キナーゼ / 細胞障害活性 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
悪性中皮腫は、化学療法、放射線療法に耐性の難治性疾患である。さらに、今後、当該患者の増大が予測されており、当該腫瘍に対する効果的な治療法の開発は急務である。私達は、当該腫瘍で選択的に細胞死を誘導するアデノウイルスを用いて、同ウイルスの細胞死誘導シグナルと細胞内チロシンキナーゼとのクロストークを中心に解析を行っている。 腫瘍で発現上昇がみられる遺伝子の転写調節領域により、同ウイルスE1A領域の発現を制御する増殖型アデノウイルス(Ad-Sur)を悪性中皮腫細胞に感染させ、siRNA ライブラリーを用いて細胞内チロシンキナーゼとの相互作用を調べた。検討した20種類のキナーゼの中で、細胞周期制御に関わるWee1キナーゼのノックダウンによってAd-Surによるアポトーシスが上昇した。Wee1キナーゼは、G2期からM期への細胞周期進行を抑制しており、Wee1 キナーゼの阻害剤(MK-1775)を用いて細胞周期を解析すると、M 期細胞の割合が上昇していた。Ad-Sur と MK-1775 の併用は、M 期細胞の割合とアポトーシスを増加させることから、分裂異常を介した細胞死 (Mitotic catastrophe) を誘導していることが考えられる。また、Ad-Sur とMK-1775を併用し、ウイルス由来タンパクの発現量をウエスタンブロット法、ウイルスゲノムDNA量をPCR法、複製されたウイルスの感染価をTCID50法で調べたところ、どれも当該ウイルスの単独処理に比べて増加しており、ウイルス複製量が増加していることを示唆している。ウイルスによる抗腫瘍活性はウイルス量に依存することから、ウイルス複製量の増加はウイルスの抗腫瘍活性を上昇させる。以上、Wee1 キナーゼの阻害剤 MK-1775 の併用により、Ad-Sur の抗腫瘍活性が上昇していることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アデノウイルスによる細胞死誘導に影響する分子をチロシンキナーゼに注目してスクリーニングした。さらに、ノックダウン及び特異的阻害剤を用いた実験から、Wee1キナーゼの抑制がアデノウイルスによる細胞死を増強することを見いだした。当初は、Wee1 についての先行研究に照らし合わせて、細胞周期を中心とした解析に重点を置いていた。しかし、細胞周期チェックポイントを標的とした薬剤によってWee1の発現量が減少したため、データの解釈に時間がかかっている。一方で、Wee1阻害剤によりウイルス複製量が増加することを見出した。腫瘍で複製されるウイルス量が増加すれば、治療効果を増強することは自明である。また、細胞死の分子機構として、アポトーシス及びアポトーシスに関わる上流分子について解析を行い、当該ウイルスとWee1阻害剤の併用によりこれらのシグナルが増強することを確認している。これらの状況を合わせて考えると、本研究は概ね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度に、Wee1の下流分子 CDK1 の阻害剤を用いてアデノウイルスによる抗腫瘍効果に対して細胞周期が影響を与えるか否かを検討しようとした。先行研究からCDK1の阻害剤はWee1 の分解を抑制することを期待したが、実際にはWee1の発現量が著しく低下した。このため、Wee1 の発現抑制と細胞周期停止を区別して解析することができなかった。平成29年度は、Wee1 を安定化しG2期に細胞周期を停止する Plk 阻害剤および M期に細胞周期を停止する aurora kinase の阻害剤を用いて、細胞周期と同ウイルスによる抗腫瘍効果の関係の更なる解析を試みる。また、Wee1 阻害剤と同ウイルスを併用した際に、細胞株によって、ウイルス複製量の増加がみられるものとそうでないものがあった。既に検討した7つの細胞株の特性から、併用が有効となる条件が推定される。このことについて、siRNA を用いて検討を行い、当該併用が有効になる分子機構の解析を行い、バイオマーカーを見出す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
同ウイルスによる細胞死に影響するチロシンキナーゼが予想よりも早く同定されたため、探索にかかるコストが減少した。また、分子機構の解析においてはウイルス複製量の増加という予期しない結果が得られ、その解析に集中した。このため、細胞周期やシグナル経路に関わる解析が遅れ、これらの検討に必要な薬剤の購入が次年度に持ち越された。研究計画に記載のあるバイオマーカー探索については細胞株の特性から候補分子を見出しているが、同定には至らなかった。平成29年度はこの候補分子についてsiRNAなどを購入して、直接的な解析を行う必要がある。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、主に低分子化合物を用いて細胞周期進行と細胞死に関わるシグナル経路を解析し、バイオマーカーの同定を行う。このため、細胞周期進行について特異的阻害剤、アポトーシスやオートファジー、ネクローシスなどの細胞死経路を検出するための特異抗体、バイオマーカー同定を行うためのsiRNA及び特異抗体をさらに購入する必要がある。またこれらの実験のために、細胞培養関係の物品、一般生化学試薬等の物品購入に使用する。また、動物実験を実施するためのヌードマウスを購入する予定である。
|