研究課題
悪性中皮腫は難治性疾患であり、効果的治療法の開発が急務である。私達は腫瘍で比較的に活性が高いサバイビン転写調節領域で発現を制御できるアデノウイルス(Ad-Sur)を用い、当該ウイルスを効率よく腫瘍で増殖させ、腫瘍細胞を選択的に死滅させる方法を研究した。アデノウイルスによる細胞死誘導の過程で複数のチロシンキナーゼが関わる報告があることから、siRNAライブラリーを用いて、Ad-Surによる細胞死とチロシンキナーゼの相互作用を調べた。検討した20種類のキナーゼの中で、Wee1 キナーゼのノックダウンによりAd-Surによるアポトーシスが上昇した。さらにWee1キナーゼの阻害剤(MK-1775)を用いて検討した結果、アポトーシス、細胞傷害活性、ウイルス複製量の上昇が認められた。最終年度はAd-SurとMK-1775の併用において、標的となる細胞の種類と細胞死経路との関係について調べた。はじめに腫瘍抑制遺伝子p53の機能が抑制されている細胞でAd-SurにMK-1775を併用することでウイルス複製量が増加することが、複数の細胞株及びp53に対するノックダウン実験から示唆された。次にMK-1775は細胞分裂期異常を介した細胞死(MC: Mitotic Catastrophe)を誘導するため、細胞周期と細胞死及びp53の関係を調べた。この結果、Ad-SurはMK-1775によるMCを増長させなかったが、一方でMK-1775の使用はp53の機能が抑制されている細胞でG2-M期の割合を上昇させており、ウイルス感染効率が上昇することを介して、ウイルス複製量や細胞傷害活性を高めることが示された。悪性中皮腫においてもp53の変異は予後不良因子の一つである。本研究により、p53に変異を持つ予後不良な悪性中皮腫に対して、Ad-Surの抗腫瘍効果がMK-1775により高まることが示唆された。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
Virology Journal
巻: 14 ページ: 219
10.1186/s12985-017-0888-0