本研究は、親密な関係にある者(恋人・配偶者)の間における攻撃行動のエスカレートを予測する方法の開発をめざし、実際にあった事例を調査・分析したものである。調査では、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」が施行された後の2002年4月1日から2018年3月31日までに判決が出た判例の判決文を収集した。収集に際しては、民事事件・刑事事件の両方について、親密な関係者間の暴力が複数日にあり、その日付・時期が記載されている事例を対象とした。分析対象となった事例は全51事例(民事事件30事例、刑事事件21事例)であった。 分析では、判決文に記載された情報をコーディングし、親密な関係の継続期間、加害者と被害者の年齢を算出した。また、判決文に記載されている関係者間の最後の出来事を「最終イベント」、その直前の二者間の出来事を「直前イベント」、最後に警察等の第三者が当該の親密な関係者に介入した出来事を「最終介入イベント」とし、最終イベントから各イベントまでの間隔を計算した。 繰り返される攻撃行動が、その後早期に殺人事件化する可能性が高い場合の事例特徴を見出すために、生存分析を行った。分析の結果、早期に殺人事件に発展する可能性の高い事例特徴は、直前イベントからの生存時間に注目した場合と、最終介入イベントからの生存時間に注目した場合とで異なることが示された。どちらの場合でも、親密な関係者間の攻撃行動の被害者が避難したり相談する相手がいる場合には、被害者自身だけでなく、その相談先になり得る第三者がその後の殺人事件の被害者となる可能性があることが示された。
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