本研究はベトナムの二大穀倉地帯であるメコンデルタと紅河デルタとで、歴史的経路に依拠しつつ異なる農地制度が形成されてきたこと、それゆえに両デルタで農村階層分化の様相が異なるものとなっていることを、実証的に検証することを目的としていた。 2016~2017年度には、すでに他の研究費を用いてメコンデルタで収集していたデータの分析作業を行いつつ、紅河デルタで予備的な聞き取り調査を実施した。当初予定では、その後、紅河デルタで質問票調査を実施することになっていた。しかし、メコンデルタで収集したデータの分析を通じて、農村階層分化の様相(具体的には分化が農地保有に規定されるか非農業所得に規定されるか)にはメコンデルタ内でも地域差があることが見いだされた。農地保有と農村階層分化の関係を明らかにするという本研究の目的を達成するうえでは、メコンデルタ内で見いだされた地域差を深掘りすると同時に、調査コミューンの位置づけや代表性を客観的に確認する作業が必要と考えられた。そこで、当初予定していた紅河デルタでの質問票調査を取りやめ、ベトナム統計総局が刊行する家計調査データの利用可能性について検討することにした。統計総局との交渉に時間を要したものの、2018年度には必要なデータの入手に成功し、その精査を進めた。さらに、世代間階層移動にも視野を広げ、2018~2019年度にはメコンデルタ・カントー大学の協力のもと、農村出身者の大学進学と卒業後の進路について、学生インタビューや情報収集を行った。 当初予定からの軌道修正はあったものの、ベトナムにおける農村階層分化の規定要因の多様化とその背景、さらには今後の変化の方向性について、多角的な視点から実態解明を行うことができた。
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