ヒトiPS細胞由来移植細胞の安全性において最も懸念される問題は、移植細胞の腫瘍化である。移植細胞が腫瘍化する原因として、(1)未分化細胞の残存、(2)形質転換細胞によるコンタミネーション、(3)製造工程中または、移植後における形質転換細胞の発生が考えられる。そこで我々は製品中に含まれる形質転換細胞を検出するため、すべてのがん細胞に共通する形質の一つである「不死化」に着目し、ヒトiPS細胞由来移植細胞に混入する不死化細胞検出法の開発を行ってきた。これまでに網膜色素上皮(RPE)細胞をモデルとして、不死化RPE細胞マーカーIRM1(Immortalized RPE cell marker 1)遺伝子を同定し、IRM1 mRNAをqRT-PCRで測定することにより不死化RPE細胞を迅速に検出する試験法を開発している。今回、IRM1と不死化との関連を調べるため、IRM1の機能解析を行った。その結果、IRM1は卵巣がん等の幾つかの腫瘍組織で高発現していることが示され、また、IRM1の過剰発現株の解析から、IRM1はアクチンフィラメントの重合を促進し、細胞遊走の亢進に寄与する事が示された。以前の報告から、IRM1は骨格筋細胞に発現し筋収縮に重要な遺伝子であることが知られていたが、今回の研究により、卵巣がん等の他のがん細胞マーカーとしても有用であること、また、細胞遊走との関連が新たに示唆された。
|