生活習慣病管理においてモラルハザードが起こる可能性について、様々な角度から検討を行った。 初年度は、米国National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES)のデータを使用し、小児肥満の定義の変化と肥満の認識(小児本人、親、医療従事者)の変化の推移について研究した。小児肥満の定義の変化(overweightをobesityに、at risk of overweightをoverweightに厳格化)が、医療従事者の認識を変化させたにも関わらず、小児本人と親には変化がおきなかったことを示した。 第2年度は、本邦における糖尿病患者、透析患者の有病者数推移の予測を行い、糖尿病発症予防、糖尿病重症化予防の有効な介入を行なったと仮定した場合に推移がどう変化するかについてシステムダイナミクスの手法を用いて調べた。結果、糖尿病発症予防の介入が透析の人数を大きく減らすには数十年の期間が必要であり、目下の透析導入患者を減らすには糖尿病重症化予防の介入をより強める必要が示唆された。 最終年度は、協力研究者の今井らと共に、NHANESを用いて、高齢者に本人が内服の自覚のないままにスタチン投薬を受けている患者の特性について調査をした。結果、スタチン使用者のうち2割弱がスタチン又は高コレステロール血症の認識がなく、高齢者、男性に特に認識欠如群が多いことが判明した。またインターネット調査でスタチンとSGLT2阻害薬(尿から糖を排出させる糖尿病薬)の内服者と健常者に、これらの投与薬を受けた(又は受けたと仮定した)場合にモラルハザード起きたか(又は起きそうか)などについて聴取した。スタチン内服後に体重増加が起きたと回答した者は14%に止まったが、生活習慣を変えない者も多く見受けられ、モラルハザードの存在が考えられた。
|