研究課題
皮膚疾患は、特殊で高価な機器に頼る検査ではなく、皮膚症状そのものの観察がその診断のために最重要である。また、「皮膚に異常がある」という観察は、特に専門的な知識を持たずとも可能である。他の疾患よりも簡便な方法で探知あるいは診断できるにも関わらず、アフリカにおける皮膚疾患を対象とした体系だった統計は未だとられておらず、その分布およびdisease burdenについて不明である。本研究では、特に世界的な疾病対策対象疾患である「顧みられない熱帯病 neglected tropical diseases (以下、NTDs)」に重点をおき、アフリカにおいて①学童皮膚検診、②スマートフォンを用いた遠隔皮膚診療teledermatologyのシステム構築を行い、その皮膚疾患の実態を明らかすることを目的としている。さらに、2つの介入法の疾病対策としての有用性の検証を目的としている。H29年度は、西アフリカ・コートジボワールのGagnoa地域の3つの村において学童皮膚検診と集団皮膚検診を実施し、ハンセン病やブルーリ潰瘍といった皮膚症状を特徴とするNTDsの早期診断に至ることができている。さらに、前年度は実施をしなかった地域看護師へのトレーニングや地域住民への検診前の啓発活動を通して、学童皮膚検診のシステム構築は完成型に近づいて来ている。学童の時点で早期診断・早期治療することは、NTDsの最大の問題である後遺症率を低下させることが可能となる。結果、個々の患者の「生活の質」とともに「日常生活動作」を向上し、彼らの能力を発揮できる将来的基盤を築くことを本研究の長期アウトカムとして期待している。また、皮膚疾患の電子データの蓄積を本プロジェクトでは実施しており、肉眼的所見で疾患のスクリーニングができる標準プロトコール作製などのシステム構築を、今後可能としていきたい。
2: おおむね順調に進展している
H28年度に実施した学童皮膚検診を通し、Gagnoa地域において、ハンセン病やブルーリ潰瘍などの皮膚NTDsの蔓延地域として、3つの村が同定された。H29年度はGagnoa地域のこれら3つの村において、学童皮膚検診(school skin survey)および集団皮膚検診(community skin survey)を実施した。3つの村の総人口は、13,650人であった。方法:検診前に、① 5人の地域看護師に対して、2日間皮膚科医による皮膚病についてのトレーニング、②地域住民を対象とした啓発活動を実施した。これは、前年度からの教訓から、今年度より実施開始した。この後、2チーム構成で(各チーム:現地皮膚科医、パスツール研究所医師、検査技師、地域クリニック看護師、データマネジャー、ロジスティシャン等の約10名)各村の検診を実施した。調査期間は、H30年1月22日~29日であった。重症例や診断困難例について、スマートフォンでの写真撮影を患者同意のもと行った。疾患名の他、衛生習慣などの皮膚病罹患のリスクファクターも評価項目とした。学童皮膚検診では、地域看護師がスクリーニングを行い、942名の児童が「皮膚症状あり」とリストアップされた。集団検診では、啓発活動を通して、452名の住民が診断ブースでの診察を受けた。計1394名の皮膚診察の結果、実際に皮膚疾患に罹患していたものは887名(63.6%)であった。皮膚NTDsとしては、4例のハンセン病、0例のブルーリ潰瘍、1例のyaws、1例のリンパ系フィラリア症、8例の疥癬がみつかった。データについては、現在さらに解析を進めている。
H26年よりコートジボワールの研究機関と保健省をメイン・カウンターパートナーとして、ハンセン病やブルーリ潰瘍となどのNTDs早期発見のために学童皮膚検診を実施してきたが、予想よりも患者数は下回った。この背景としては、感染症に罹るリスクがさらに高い学校に行けない子供たちが対象から外れてしまうことや、単発的な活動に終わってしまうこと(yawsなど季節性がある疾患などが診断できない)が課題として見出されてきている。今後のプロジェクトでは、H29年度実施した通り、学童皮膚検診で特定された蔓延地域を対象に、コミュニティー・ヘルス・ワーカーの教育、コミュニティー検診に加え、現在開発を進めているteledermatologyツールとシステムを導入することで、年間にわたり持続可能なサーベイランス法(統合型サーベイランス・システム、combined surveillance approach system development)の構築をはかっていくことを目標としている。
今年度は、本研究費の他、AMED「ハンセン病制圧を目指した診断法及び治療法等の開発に関する研究」(H26-H29年度、今年度終了)からサポートを受けることができ、本研究費からの支出が下回った。次年度は、コートジボワールにおいて同規模のサーベイランスを計画していること、また、teledermatologyのためのサーバー構築を予定しており、次年度に繰り越した研究費を使用予定である。さらに、論文投稿費(各約20-25万円、1つは既にaccept)に使用する予定である。成果を、積極的に学会報告もしていきたい。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
PLoS Neglected Tropical Diseases
巻: 12(5) ページ: e0006489
10.1371/journal.pntd.0006489
IASR
巻: 39(2) ページ: No. 456
Visual Dermatology
巻: 16 ページ: Part 17
巻: 16 ページ: コラム
臨床皮膚科
巻: 71(10) ページ: 764-765
https://doi.org/10.11477/mf.1412205197