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2016 年度 実施状況報告書

近代日本における戦時精神医療体制―国府台陸軍病院と傷痍軍人武蔵療養所を中心に

研究課題

研究課題/領域番号 16K21658
研究機関一橋大学

研究代表者

中村 江里  一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (20773451)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワードアジア・太平洋戦争 / 戦時精神医療 / 国府台陸軍病院 / 傷痍軍人武蔵療養所 / 医療アーカイブズ
研究実績の概要

本研究は、近代日本における戦時精神医療の中核施設であった国府台陸軍病院と傷痍軍人武蔵療養所の診療録を分析し、精神分裂病(現在の統合失調症だが、以下は当時の病名で統一する)を中心とする戦時精神疾患を取り巻く構造や実態を明らかにするものである。
当初の計画では、国府台陸軍病院診療録の複写版を分析する予定であったが、原本の方を利用できる見込みが立った。また、本研究計画に必要な倫理審査は、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づいて行われるが、平成29年2月28日に一部改定された新指針に対応する必要が生じた。
そのため、今年度は資料提供に関わる複数の機関との関係構築を新たに行い、倫理指針の改定内容を把握した上で倫理審査を進めていくこととなった。実際の資料分析には遅れが生じているが、分析の対象としては原本の方が資料的価値が高く、保存状況も良好であるため、変更には合理性があると考える。これまでの先行研究が分析の対象としたのも複写版の方であり、複写版の方は入院患者約1万名のうち資料の存在が確認されているのはおよそ8000名であるため、残る約2000名が新たに発見される可能性もある。
本研究の研究課題は、(1)戦時精神医療における患者の動態、(2)戦時精神医療における病の解釈と患者の処遇、(3)地域社会や家族の患者へのまなざしの三点に分類されるが、今年度は既に利用環境が整備されている関連資料を用いて研究論文の執筆や研究報告を行った。(2)については、国府台陸軍病院(複写版)診療録を抄録した資料集を用いて、いわゆる「戦争神経症」患者の傷病恩給について分析する論文を執筆し、国府台陸軍病院全体の恩給策定方針も整理した。(3)については、既にアーカイブズ整備が完了している傷痍軍人武蔵療養所の診療録等を用いて、共著論文の執筆と、診療録を用いた歴史研究の意義と課題について研究報告を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

上記の通り、利用する資料に変更が生じ、多機関と新たに調整の必要が出てきたため。また、倫理指針の改定が平成28年度末に近かったため、新指針の内容が確定してから倫理審査を受けるのが良いと判断したため。ただし、既に分析を進めている傷痍軍人武蔵療養所に関する共著論文を掲載し、国府台陸軍病院に関しても刊行資料を利用して国内外の学会や一般誌での論文執筆を積極的に行い、成果発信に努めた。また、近代日本の日記文化という広い観点から病床日誌の歴史資料としての可能性に関して報告を行い、報告での議論をふまえて論文執筆を進めている。

今後の研究の推進方策

今後残りの機関で倫理審査を行い、審査が完了次第、資料の分析を開始する予定である。倫理審査は、複数の関係機関で行われることとなり、そのうち一つの機関では既に倫理審査の承認を受けている。
H28年度に引き続き、研究報告等を積極的に行い、各分野の専門家の助言を得ながら成果をまとめる。また、近代日本における戦時精神医療を国際的な議論に位置づけるために、英語での研究成果の発信も行う予定である。

次年度使用額が生じた理由

利用資料に変更が生じ、資料の分析開始が遅れたため、当初の研究計画で利用予定であった国内旅費、人件費、診療録の電子化のための費用等を使用しなかったため。

次年度使用額の使用計画

倫理審査が終了次第、資料分析のために必要な資料保存機関までの国内旅費、データ入力補助のための人件費、診療録の電子化のための費用を使用する。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2016

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 戦争と精神疾患の「公務起因」をめぐる政治―日本陸軍における戦争神経症と傷病恩給に関する考察を中心に―2016

    • 著者名/発表者名
      中村江里
    • 雑誌名

      精神医学史研究

      巻: 20 ページ: 37~41

  • [雑誌論文] 戦時精神医療体制における傷痍軍人武蔵療養所と戦後病院精神医学―診療録に見る患者の実像と生活療法に与えた影響―2016

    • 著者名/発表者名
      後藤基行,中村江里,前田克実
    • 雑誌名

      社会事業史研究

      巻: 50 ページ: 143~159

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 傷痍軍人武蔵療養所の歴史-戦後の病院精神医学への影響も含めて2016

    • 著者名/発表者名
      竹島正,後藤基行,中村江里,古屋龍太
    • 雑誌名

      日本社会精神医学会雑誌

      巻: 25 ページ: 149~156

  • [雑誌論文] 戦争の長い影──不可視化された日本軍兵士の心の傷2016

    • 著者名/発表者名
      中村江里
    • 雑誌名

      世界

      巻: 882 ページ: 190~199

  • [学会発表] Who Deserves War Pension?: The Asia-Pacific War and Psychiatric Casualties in Japan2016

    • 著者名/発表者名
      Eri Nakamura
    • 学会等名
      The Eighth Meeting of the Asian Society for the History of Medicine
    • 発表場所
      Academia Sinica, Taiwan
    • 年月日
      2016-09-30
    • 国際学会
  • [学会発表] 精神科診療録を用いた歴史研究の可能性と課題―戦時下の陸軍病院・傷痍軍人療養所における日誌の分析を中心に―2016

    • 著者名/発表者名
      中村江里
    • 学会等名
      シンポジウム 近代日本の日記文化と自己表象
    • 発表場所
      明治学院大学
    • 年月日
      2016-09-18
    • 招待講演
  • [学会発表] 'Invisible' War Trauma in Japan: Medicine, Society and Military Psychiatric Casualties2016

    • 著者名/発表者名
      Eri Nakamura
    • 学会等名
      Third ISA Forum of Sociology
    • 発表場所
      Wien University, Austria
    • 年月日
      2016-07-11
    • 国際学会

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公開日: 2018-01-16  

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