研究課題
本研究の目的は、戦時精神医療の中核施設であった国府台陸軍病院の診療録(原本)を分析し、戦時精神疾患を取り巻く構造や実態を明らかにすることである。今年度は、まず複数の関係機関との調整を経た上で、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づき、研究代表者が所属する慶應義塾大学及び資料保存機関で倫理審査委員会の承認を受けた。その後、資料の全体像と保存状態を把握するため、大学院生のアルバイト数名の協力を得て、アーカイブズ整備を行った。その結果、戦時中に国府台陸軍病院に入院していた患者約1万名のうち、およそ8割程度の患者の記録が残されていることが判明した。恐らくは敗戦前後の混乱による保存状態の悪化のために、一部激しく破損していた資料に関しては、保護措置を講じた。次に、昭和14年度及び18年度の診療録を電子化し、「精神分裂病(現在の統合失調症)」と診断された患者について、階級、発病地、転帰、平均在院期間、原職、傷痍疾病等差、家族や配偶者の有無などのデータ入力を行い、傷痍軍人武蔵療養所のケースとの比較を行った。本研究では、当初利用を予定していた資料の変更、倫理指針の改正、複数の関係機関との調整の必要性などの理由により、研究スケジュールと内容も大きく変更せざるを得なかった。しかし、医療機関が保存する診療録を歴史的に価値のあるものとして長期的に保存する仕組みはまだほとんど整備されておらず、歴史学的な見地から研究利用するケースも国内ではまだ数少ないのが現状である。本研究では、このようにこれまで歴史資料としての利用が困難であった診療録の利用の道筋を模索し、アーカイブズ整備と基礎的なデータの分析を行うことで、診療録を用いた精神医療史の研究環境を大きく改善することができた。
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East Asian Science, Technology and Society
巻: 13(1) ページ: 57-75
https://doi.org/10.1215/18752160-7339316