最終年度においても日本各地からバッタ目のキリギリス科、特に、ヤブキリ属およびキリギリス属に関して標本の収集を行った。得られた個体については乾燥標本として保管するだけでなく、DNAサンプルを無水エタノールに浸けて保存し、また、鳴き声の録音についてもできる限り行った。得られたDNAサンプルからはDNA抽出を行い、ミトコンドリアの遺伝子をPCRによって増幅し、配列決定をおこない、分子系統解析を行った。昨年度まではミトコンドリアの16SリボソームRNA遺伝子の部分配列のみの解析だったが、新たにCOI遺伝子の部分配列を増幅するためのプライマーを設計し、配列の決定をおこなった。この新しいプライマーではキリギリス属のCOI遺伝子の配列決定はうまく行かなかったが、ヤブキリ属については良好な波形データが得られた。ヤブキリ属は従来から日本各地における多数の未記載種の存在が指摘されてきたが、今回のミトコンドリアのCOI遺伝子の部分配列を用いた分子系統解析においても、多数の地域集団間で明瞭な遺伝的分化が生じており、未記載種として扱うべき系統群が複数存在することが明らかとなった。ただ、系統解析に用いたサンプルの採集地点がまばらであり、日本全国のヤブキリ類について包括的な解析ができていない。また、分類学的な再検討が必要であると考えられるが、系統群間の形態の違いについて検討を行ったが、明瞭な差異を見出すことができなかった。
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