本研究は、液体水素を用いた水素ステーションに多量にあるものの現在未利用の液体水素冷熱を活用するために、マイナス数十度の低温から室温までの昇温により水素を昇圧することを目的としている。2年目の研究実績として、実用化に適した合金による水素昇圧材料の選定、およびその合金を用いた熱化学水素昇圧の原理実証が挙げられる。 ①実用化に適した昇圧合金の選定 昇圧合金の選定は初年度で概ね目処をつけたが昇圧能を重視したため、合金の吸蔵放出圧のヒステリシスは小さいものの、プラトー域が傾斜しており、実用化には不適であった。ラボスケールでの小規模実験ではプラトーの傾斜は課題にならないが、実運用を想定した際には熱マネジメントが難しくなるため材料探索から行うこととした。探索の結果、20MPa昇圧するカードル用合金および70MPa昇圧するFCV用合金として、TiCrMnFe (1-1.5-0.2-0.3)およびTiZrFe(0.8-0.2-2)をそれぞれ選定した。両合金とも同一温度における吸蔵放出圧のヒステリシスが小さく、プラトー性が良いことは10MPa以下のPCT装置を用いて測定し確認した。
②熱化学昇圧の原理実証 本実験は上記カードル用合金を用いて高圧水素を扱える実験設備により昇圧能を実際に確認した。20MPa用の昇圧合金〔TiCrMnFe (1-1.5-0.2-0.3)〕を選んだ理由は、70MPaの高圧水素下での特性測定ノウハウを獲得すべくより低圧下の測定を実施することと、水素ガス輸送は主に20MPaの水素ガスで行われており現状では燃料電池車への水素供給よりも市場需要が多いと見込まれるためである。本合金を100g充填した容器を密閉下で35℃まで昇温することで圧力は20MPa以上増加し、熱化学水素昇圧の原理実証を行った。
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