研究課題
平成29年度は、統計的アプローチによる有害性推論手法の研究および、有害性評価・予測に資するスクリーニング試験方法の統計的測定精度評価に関する研究を行った。有害性推論手法の研究については、平成28年度に投稿した論文(ラットのインビボデータベースと化学物質の分子記述子を用いてラット肝毒性を判別する統計モデルの構築についての論文)に関して査読コメントに対応し、追加の解析を行った。具体的には、構築した予測モデルの外部検証を実施するため、米国EPAが公開しているToxRefデータベースよりラット28日間反復投与毒性試験データを抽出し、そのデータを持つ化合物の分子記述子を算出し、構築した統計モデルで有害性の予測を行った。その結果、外部検証はcross-validation等を利用した内部検証に比べ予測精度が劣ることが明らかになった。しかしその原因として、構造関連記述子を解析することで、予測モデル構築のために利用した化合物群と外部検証に利用した化合物群との特徴が異なることが挙げられることを明らかにした。また、有害性推論手法の枠組みの1つであるRead-acrossをインビトロデータを用いて行うための化合物のクラスタリング手法に関する論文を投稿した。統計的測定精度評価に関する研究については、ISO 5725で定義されている併行分散の大きさと室間分散の大きさとを比較可能なF検定を導出し提案した。さらに、そのF検定の検出力についても算出した。この結果については、国際学会で発表するとともに、論文としてまとめ国際誌に投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度にほぼ得られていた成果については、当初の予定通りに2報論文としてまとめ国際誌に投稿した。そのうち1報については、査読コメントで要求された追加の解析を行うために新たなデータを整理・整備し、追加の解析を実施した。その後、原稿を改訂・再投稿しこの論文は受理された。さらに平成29年度より開始した有害性評価・予測に資する試験方法の統計的測定精度評価に関する研究についても一定の成果が得られ、その成果を国際学会で発表するとともに、国際誌への論文投稿にまで至った。以上から、本研究課題は「おおむね順調に進展している。」と判断した。
平成30年度は、まず投稿中の論文2報について査読コメントに対応し、2報とも受理されることを目指す。さらに、有害性推論手法の研究については、分子記述子に加えインビトロデータ等を用いた予測モデル構築に取り組む。また、統計的測定精度評価に関する研究については、量的データだけではなく質的データの扱いについても検討を開始する。
(理由)少額の残が生じたため、翌年度に繰り越しをし次年度の研究費と合算して有効活用することとした。(使用計画)次年度の研究費も今年度に引き続き研究費の大半を、研究に必要な文献資料代、情報収集・研究成果発表・研究連絡に必要な旅費として使用する予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Computational Toxicology
巻: 6 ページ: 64~70
10.1016/j.comtox.2017.05.002
https://staff.aist.go.jp/jun-takeshita/index.html