研究課題
急速減量は短期間で体水分量を減らす脱水によって達成され,ときに重篤な脱水状態を引き起こす可能性がある. 体水分量の減少に対し生体内では恒常性を維持する機能が働くため,体水分量のみで脱水状態を判断することはできない.急速減量の導入期間が体液の恒常性維持と酸化ストレスに与える影響を解析するため,男性レスリング選手9 名を対象として,異なる日数 (1, 3, 7 日の3 群) で導入された5%の急速減量が体水分量,血清中の浸透圧,ナトリウムとアルドステロン濃度,酸化ストレス指標 (d-ROMs) に与える影響を解析した.その結果,3 群とも体水分量の減少は同程度で,血清の浸透圧,ナトリウムとアルドステロン濃度,d-ROMs が有意に上昇したが,その変化量に3 群間で差はなかった.また,3 群いずれも急速減量後のd-ROM の平均値が正常域の上限値 (300U.CARR) を越えることはなかった.以上より,導入期間が1-7 日間であれば,5%の急速減量が身体に与える循環ストレスは同程度であった.体液の恒常性を維持する適応メカニズムが作動するため,単発の急速減量によってアスリートが過剰な酸化ストレスに暴露される可能性は低いと考えられた.したがって,今後は急速減量を反復した回数や年数にも注目し,これらが体液の恒常性維持ならびに身体のストレス応答に与える影響を解析する研究が求められる.ヒトを対象とした実験では倫理的制限が大きいため,この課題に対しては動物実験による反復急速減量モデルの開発が有用かも知れない.
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Int J Environ Res Public Health
巻: 17 ページ: 180
10.3390/ijerph17010180